笑門来福7 東洋医学研究所®グループ  みずの鍼灸療院 院長  水野 高広

 作り笑いも、笑うことと同様の効果があることは、顔面フィードバック効果でお話しましたが、やはり、大声で自然に笑うほうが、より効果があることがわかってきました。

 笑うことが健康に良いということは、古代ギリシャで喜劇を観ることが治療法ともされていたことや、古代中国の医学書に記載があることで経験的に分かっているのにもかかわらず、この分野の研究は、なかなか発展しません。

 日本にも、笑い学会というものがあり、参加させていただいたことがありますが、とても面白かったことを思い出します。

英国での研究
 イギリスといえば、なんとなく紳士の国のイメージでお堅いお国柄のような感じがしますが(あくまで個人的に)、実は、昔日本でも吹き替えで放送されてたほどのお笑い番組がありました。それは『モンティー・パイソン』。とてもシュールで子供ながらに理解ができない笑いも多かったのを覚えています。
 さて、そんな中で、英オックスフォード大学社会文化人類学研究所のRobin I. M. Dunbar所長 は上品なクスクス笑いではなく、腹をかかえて笑う身体活動を伴う笑いでは、体力を消耗することで別名"脳内麻薬"といわれるエンドルフィンが放出されることを明らかにしました。 このエンドルフィンは脳内で作られる複雑な構造をもつ神経伝達物質で鎮痛作用と多幸感をもたらすと考えられています。

一人で笑うより、友と笑おう。
 実はこの研究の中で、人間は1人でいるときよりも誰かと一緒にいるときの方が30倍多く笑うことが示されています。今回の研究でも、エンドルフィンの大量放出は、腹式呼吸を伴う心からの笑いを誰かと共有したときに限られることが考えられるそうです。
 また、誰かとコメディー番組を15分間見るだけで、痛みの許容レベルが平均で約10%上昇することも突き止めました。

どんな笑いに最も効果があるのか
 痛みに対する許容レベルがどのような要因で決定されるのかを検討するため、10年以上に及ぶ6件の試験を実施しました。それぞれの試験対象者は、実験室でテレビ番組を視聴するか、劇場などで舞台を観覧し、その前後に痛みの許容レベルを測定しました。この測定は、氷冷スリーブ、血圧測定カフによる加圧、痛みを伴うきついトレーニングで行いました。
 その結果、ゴルフレッスンやドキュメンタリーものといった脳を活性化させることを意図した内容のものに比べて、『Mr.ビーン』や『フレンズ』などのコメディーを15分間視聴する方が疼痛閾値を明らかに上昇させることがわかりました。
 また、視聴者をリラックスした気分にさせる自然番組の視聴では、ゴルフレッスン番組の場合と同じく疼痛閾値に大きな変化はみられませんでした。

 このことから、エンドルフィン放出による鎮痛効果に重要なのは笑い自体であって、心地よさや満足感によるものではないことがわかりました。

 別の試験では、エディンバラで開かれる世界最大の芸術祭、エディンバラ・フェスティバル・フリンジでコメディーライブを観覧した参加者と、演劇を観劇した参加者で疼痛閾値を比較しました。
 すると、笑いを他の参加者と共有することで得られる鎮静効果は実験室に限られたものではなく、実際の生活のなかでも発揮されることが確認されました。

 Dunbar所長は「人間が笑う理由や社会生活における笑いの役割については、これまでほとんど研究されていなかった。今回参加者の笑い声を録音して検討した結果、彼らはコメディーを観ている時間の3分の1を笑って過ごし、それにより疼痛許容レベルが高まった。笑いが人間社会で非常に重要な役割を果たしているのは、こうしたエンドルフィン放出作用によるものだろう」と話しています。

 霊長類でもヒトでも重要とされる笑いは、これまで学術的にほとんど注目されていませんでした。今回の新しい論文は、エンドルフィン放出を促すためにはグループ活動が重要であることを示したDunbar所長による別の研究結果からも裏付けられました。

 東洋医学研究所®グループは、黒野保三先生を中心とした、まさにグループ活動で、その先生方は、師匠と寝食をともにし、楽しくも、厳しい研修の毎日をそれこそ笑いながら歩んできています。
 当院でも、患者さんとの一体感の中で共に笑いながらこの苦しみを乗り切っていこうと考えています。

 なかなか笑って通ることは難しいと思いますが、少しでも笑いの中に希望を見出していただきたいと思っています。
 泣いて通るのも道、笑って通るのも道。