顔面神経麻痺について(1)東洋医学研究所®グループ  井島鍼灸院 院長 井島 晴彦 平成29年12月1日号

はじめに
顔面神経麻痺は、急に顔の半分が動かなくなり、顔がゆがんだり、目や口が閉じられなくなったりする病気です。鍼灸院には顔面神経麻痺の中でも、ベル麻痺やハント症候群に代表される末梢性顔面神経麻痺の患者さんが多く来院されます。そして、末梢性顔面神経麻痺に対して鍼治療が効果的であることは、臨床の現場でたびたび経験します。そこで、東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループでは末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療効果に関する症例集積を行い、平成29年8月27日に開催された第35回生体制御学会学術集会において、「鍼治療(筋膜上圧刺激)による末梢性顔面神経麻痺症状の改善効果 ‐柳原法(40点法)を用いた症例集積‐」、「 末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の1症例 ‐発症後約3年半経過した後に鍼治療を開始したベル麻痺の症例‐」、「 両側交代性顔面神経麻痺に対する鍼治療の症例検討」の3題を報告させて頂きました。
顔面神経麻痺を発症された患者さんには、大変お困りの方も多いと思います。したがって、今回からの私のコラムでは末梢性顔面神経麻痺の疫学、症状、原因、メカニズム、鍼治療効果などについて順にご紹介させて頂きます。

顔面神経麻痺の原因にはどんなものがあるか?
顔面神経麻痺の主な原因について、その頻度は表のとおりです。これらの原因のなかで、日常診療で特に多くみられるものはベル麻痺とハント症候群であり、全体の約70%を占めています。
ベル麻痺は外傷や中耳炎などのように、顔面神経麻痺の明らかな病因が同定できない急性末梢性顔面神経麻痺です。特発性顔面神経麻痺ともいわれますが、過去には循環障害や自己免疫などいくつかの原因が指摘されてきました。現在ではウイルスの関与、特に膝神経節で再活性化した単純ヘルペス1型ウイルスがその主たる原因であると考えられています。
一方、ハント症候群は膝神経節における水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化を原因とした顔面神経麻痺です。ハント症候群では、顔面神経麻痺に伴って、耳の穴や耳介周囲に帯状疱疹による水ぶくれができたり、強い耳の痛み、耳鳴、難聴、めまいなどが起こったりするのが特徴です。個々の症例では、これらの症状のいくつかが組み合わさって出現します。

                   (文献3より引用)

ベル麻痺・ハント症候群の発症メカニズムは?
顔面神経は脳幹から発し、頭蓋骨の耳の部分(側頭骨)の中にある顔面神経管を通り、耳たぶの後ろから出て顔面に分布しています。顔面神経管は人体の中で最も狭く最も長い骨性神経管です。顔面神経には直角に曲がっているところがあり膝神経節といいます。
ベル麻痺の多くは膝神経節における単純ヘルペス1型の再活性化が原因です。ハント症候群は、膝神経節における水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因です。ウイルスの再活性化で顔面神経炎を生じますが、膝神経節の部分は顔面神経管が直径約1mmと大変狭いために神経が腫脹すると圧迫されて障害が起き、顔面神経麻痺を発症すると考えられています。

地域や年齢、季節によりベル麻痺やハント症候群の頻度が異なるか?
人口10万人当たりの年間のベル麻痺発症例は、欧米では15~20例、あるいは20~30例などの報告がみられます。わが国では愛媛県における32例、あるいは山形県における25例などの報告があります。これらを参考にすると、欧米と日本、さらに日本の西部と北部で発症頻度に顕著な差異はないものと思われます。また、明らかな性差はありません。
ベル麻痺と年齢の関係については、発症頻度については50歳代が最も多いと報告されています。また、妊娠、特に妊娠後期の女性においてベル麻痺が生じやすいとの指摘もあります。
一方、ハント症候群では、人口10万人当たりの年間の発症数は2~3人といわれています。20歳代と50歳代に発症頻度が高いとの指摘があります。さらに、小児では男児より女児において発症頻度が高いといわれています。
季節と発症数の検討では、ベル麻痺は1年中ほぼ一定ですが、ハント症候群では5月と8月が少なく、3月と4月、および6月と7月に発症例が増加すると報告されています。

おわりに
疲れやストレスをためると病気を引き起こすことは、治療院に来院される患者さんの話をお聞きすると強く感じます。その理由の一つが潜伏しているヘルペスウイルスの動きの変化が関係している可能性があります。そして、そのヘルペスウイルスは、ベル麻痺やハント症候群に代表される末梢性顔面神経麻痺の主な原因ともなっています。このことから、東洋医学研究所®所長の黒野保三先生が常々言われているように、疲れやストレスをためない生活習慣を身に付けることの重要性が再認識できました。
さらに、末梢性顔面神経麻痺が発症してしまったとしても、鍼治療により症状が改善する可能性があることを研究報告させて頂いております。
東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループの先生方は、顔面神経麻痺に関する知識や臨床データを基に症状の改善をはかり、患者さんに喜んで頂いております。是非、一度御相談してみて下さい。 

引用・参考文献
1)村上信五,青柳優,竹田泰三,池田稔ら.顔面神経麻痺診療の手引.金原出版株式会社.1-62.2011.
2)柏森良二,顔面神経麻痺のリハビリテーション.医歯薬出版株式会社.25-37.2015.
3)脇坂浩之,柳原尚明.顔面神経障害の疫学.CLIENT21 No9:顔面神経障害(青柳 優編).中山書店.131-5.2001.