認知症の基礎知識2 東洋医学研究所®グループ  ことぶき鍼灸院 院長 秋田 壽紀 令和2年11月1日号

はじめに
超高齢社会となっている現在の日本ですが、総人口に占める高齢者人口の割合の推移をみると、1950年(4.9%)以降一貫して上昇が続いており、1985年に10%、2005年に20%を超え、2018年は28.1%となりました。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合は今後も上昇を続け、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた世代が65歳以上となる2040年には、35.3%になると見込まれています。
このように急速な超高齢化に直面している日本において、認知症患者の人数も増加しており、2012年には462万人でしたが、2025年には700万人を超えると予測されています。このような状況の中、認知症についての基本的な知識を身につけて、予防、早期発見してくことはとても重要なことです。
前回は、認知症の基礎知識、特に認知症の症状について説明しましたが、今回は認知症の原因疾患とその特徴について説明していきます。

認知症を引き起こす病気
認知症の原因となる病気には様々なものがあります。認知症を引き起こす病気を大きく分けると、脳の神経細胞がゆっくりと死んでゆく「神経変性疾患」、脳の血管の病気が原因である「脳血管性認知症」、「その他の原因」の3つに分類されます。
神経変性疾患による認知症の中では、アルツハイマー型認知症がその代表疾患で、認知症の中で最も割合の多い疾患です。また、3番目に多いレビー小体型認知症も神経変性疾患になります。2番目に多いのが「脳血管性認知症」で、脳梗塞や脳出血が原因です。「その他の原因」の中には、適切な治療で認知症が治る可能性のある精神疾患や脳外科疾患あるいは内科疾患、特定の栄養の不足なども含まれます。


認知症の原因疾患の割合

認知症の特徴と違いについて
「アルツハイマー型認知症」、「レビー小体型認知症」、「脳血管性認知症」は3大認知症と呼ばれています。この3大認知症に関して、それぞれの特徴と違いについてみていきましょう。

アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症はβたんぱくやタウたんぱくという異常なたんぱく質が脳にたまって神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮してしまうのが原因の認知症です。タンパク質のかたまりは加齢によって増えますが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、体をぶつけ合うコンタクトスポーツなどによる頭部外傷がリスクとなり、さらに増加します。そのため「第3の生活習慣病」と言われることもあります。記憶を担っている海馬という部分から萎縮が始まり、だんだんと脳全体に広がります。
そのため、物忘れから始まることが多く、徐々に今まで日常生活でできたことが少しずつできなくなっていきます。新しいことが記憶できない、思い出せない、時間や場所がわからなくなるなどが特徴的です。また、物盗られ妄想や徘徊などの症状が出ることがあります。
症状の経過は、比較的ゆっくりと進行していき、数年をかけて徐々に記憶能力から全般的な認知機能が悪化していきます。

レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、70代以降に見られることが多い認知症で、脳の様々な部位に、タンパク質のかたまりであるレビー小体ができることで発症します。レビー小体はその蓄積する脳の中の部位によってレビー小体型認知症を発症したり、転びやすさや手の震え、動きの緩慢さ、筋肉の固さなどが特徴のパーキンソン病を発症したりします。
レビー小体型認知症の最も特徴的な症状は、「ないものが見える」、あるいは「影や衣服がほかの物や人に見える」といった幻視です。幻視に伴った妄想を発症するケースもあります。また、先述したパーキンソン病のような症状も現れます。記憶障害はアルツハイマー型と比べて軽い傾向にあります。 その他にも、意識のレベルが著しく変化したり、睡眠中に夢を見て声を出す、夢の内容と同じ行動をとる症状(レム睡眠行動異常)が出ることもあります。また便秘や急に起きたときの血圧低下などの症状も多く見られます。抑うつ傾向も見られるため、初期にはうつ病と勘違いしがちな病気です。
発症してからの平均生存期間は10年未満と言われますが、発症から1~2年で急速に進行して死亡する場合もあり、個人差が大きいとされています。
 
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳卒中や心停止や極度の血圧低下による脳損傷、脳の血管炎などが原因で起こります。60歳以上の男性に多く見られます。 気づかないうちに進行が進んでいるアルツハイマー型と比べ、脳血管性認知症は脳梗塞などの発作を機に発症しますが、実際は大きな発作よりも気づかない程度の小さな発作の積み重ねによって発症する場合も多く、診断には専門的な診察が必要です。 脳血管障害の多くは、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が原因で起こります。特に高血圧は脳血管性を引き起こしやすい脳梗塞を誘発します。
脳血管性認知症は、障害を受ける機能と健全な機能が混在していることから、「まだら認知症」とも呼ばれます。これは、脳のどの血管が詰まったかによって障害を受ける機能が異なるためです。そのため「一見しっかりしているように見えるが新しいことを覚えられない」というケースがあります。 脳の損傷を受けている場所によって症状は千差万別ですが、脳の前頭葉白質が障害されているケースが多く、その場合には記憶障害よりも遂行機能障害や精神運動の遅延、意欲の低下があらわれます。また、感情面での変化も特徴的で、急に笑ったり泣いたりする「感情失禁」や、反対に抑うつ状態になったりします。その他、歩行障害を中心としたパーキンソン症状が合併する場合もあります
進行は、梗塞が起きる度に悪化するため、比較的急速に発症し、段階的に悪化していきます。

3大認知症の特徴
 
 

おわりに
今回は、認知症の基礎知識として、認知症の原因となる3大認知症について説明してきました。これらの疾患の治療は、進行を抑えたり、一時的に症状を緩和したりする治療しかまだありませんが、それぞれの原因疾患によって対応の方法が変わっていきます。適切に対応することで、患者本人やその介護にかかわる人の負担を軽減することにもつながります。
認知症で最も大切なことは発症しないように予防することです。3大認知症は、睡眠や運動、食生活などの生活習慣が大きく影響しています。また、糖尿病や、高血圧などの生活習慣病もリスクになることが分かっています。
鍼治療は、これらの生活習慣病に対して効果があることが実証されています。また、鍼治療は認知症の認知機能の低下に対して効果があるという研究も報告されています。ですから、生活習慣の改善とともに是非、鍼治療を取り入れて、認知症を予防していきましょう。

引用・参考文献
・総務省統計局 統計トピックスNo.113 統計からみた我が国の高齢者
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1130.html
・認知症施策の現状 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000...Soumuka/0000069443.pdf
・デール・プレデセン:アルツハイマー病 真実と終焉. ソシム.2018 
・池上晴之:NHK今日の健康大百科NHK出版.2010
・黒野保三.長生き健康「鍼」.現代書林.2008
・Bai-Yun Zeng.Effect and Mechanism ofAcupuncture on Alzheimer'sDisease. International Review of Neurobiology;Volume 111.181-93.2013