骨からはメッセージが出ている 東洋医学研究所®グループ  福田鍼灸院 院長 福田裕康 令和3年3月1日号

骨は体を支える屋台骨です。骨の量が減ってしまえば骨折をおこしやすくなりますが、本当に怖いのは骨からでているメッセージ(骨ホルモン)が減ってしまうことだということが指摘されるようになりました。
まずは、その中で骨自身を強く保つために働く骨ホルモン、そして全身に働く骨ホルモンの代表をみていきましょう。

骨を保つためのメッセージ
骨粗鬆症という病気を耳にしたことがあると思いますが、それを理解するために、骨の作り替えの仕組みを思い出してみましょう。骨は常に作り替えられていて、大人では3~5年で全身の骨が入れ替わります。新しく強い骨を維持することで、疲労骨折などを防ぐためです。この作り替えを行っているのが、骨の中にある細胞で、骨を壊す「破骨細胞」と骨を作る「骨芽細胞」です。この2種類の細胞の作り替えのバランスが崩れてしまうと骨が弱くなってしまいます。その代表的な病気が骨粗鬆症です。
では、この骨はどうやってバランスをとっているのかというと、その命令を出す役割をもつ「骨細胞」があります。この骨細胞はメッセージ物質といわれる特別な物質を放出して調整しますが、その放出する物質の中には「骨をつくるのをやめよ」と命令する少し変わった役割をする『スクレロスチン』があります。そして、骨細胞は骨の量が増えすぎないように、『スクレロスチン』によって、骨を作る「骨芽細胞」の数を減らします。ところが『スクレロスチン』が出過ぎてしまうと、骨量が減ってしまうのです。
なぜそんな異常事態が起きるのでしょうか。実は骨細胞には「骨にかかる衝撃を感知する」という働きもあり、衝撃があるかないかによって、新しい骨を作るペースを決めているのです。骨に衝撃がかからない生活を続けていると、骨細胞が『スクレロスチン』をたくさん出して、骨芽細胞の数を減らし、骨の建設を休憩させてしまうことがわかってきました。
骨粗鬆症にならないためや、骨粗鬆症を進行させないために運動がいいということをよく聞きます。その理由にはこんな骨ホルモンの働きがあったのです。ということは、骨粗鬆症はお年寄りだけの病気ではありません。運動をしないで一日の大半を座って生活している現代人は、『スクレロスチン』が大発生し、知らないうちに骨粗鬆症が進行している可能性があるのです。

全身に伝える骨からのメッセージ
アメリカのコロンビア大学のジェラール・カーセンティ博士は、骨芽細胞からでる『オステオカルシン』に注目しています。『オステオカルシン』は骨の中から血管を通じて全身に届けられ、「記憶力」「筋力」さらには「生殖力」まで若く保つ力があることがわかっています。
例えば『オステオカルシン』がないマウスでは、位置を記憶する能力が衰えたり、精子の数が半分近くまで減少してしまうことが実験で確認されています。また、骨芽細胞といえば、骨を作る細胞。その細胞が、若さを生み出す驚きのパワーを持っていることが、最新の研究で明らかになっているのです。
ドイツのウルム大学のハームット・ガイガー博士が注目しているのは、骨芽細胞が出す『オステオポンチン』です。年老いたマウスの骨髄内では『オステオポンチン』の数が少なくなっていることに着目し、老化現象との関わりについて研究しています。そして『オステオポンチン』が減少すると、骨髄内で生まれる免疫細胞の量が低下することをつきとめました。免疫細胞の量が減れば、免疫力が下がり、肺炎やがんといった病を引き起こすリスクがあります。

どうすれば活かせるか?血管の機能がポイントか?
骨の血流は他の臓器と同様に骨を維持するために必要であることに疑問はありませんが、骨ホルモンが血管を通って体のすみずみまで運ばれるとなると、血管の機能がより重要になります。
我々の研究において、まだ動物実験の段階ですが、骨にある血管は自動的に縮んだり緩んだりして、血のめぐりをよくすることに寄与する機構をもっていることがわかりました1)2)。また、運動させることによって血管をコントロールしている神経の機能が変わり、血管を拡げやすくすることがわかりました3)。
鍼治療は、血流をよくすることが知られています。さらに、全身を調整することも知られています。例えば足三里といわれる有名な経穴(ツボ)がありますが、この足にある経穴の下には骨に入る血管があります。この経穴への刺激によって体全体が調節されるメカニズムの一つに骨ホルモンがあるかもしれません。より一層の研究が明らかにしてくれると思います。

[文献]
1: Fukuta H, Mitsui R, Takano H, Hashitani H. Neural regulation of the contractility of nutrient artery in the guinea pig tibia. Pflugers Arch. 2020 Apr;472(4):481-494.
2: Fukuta H, Mitsui R, Takano H, Hashitani H. Contractile properties of periosteal arterioles in the guinea-pig tibia. Pflugers Arch. 2017 Sep;469(9):1203-1213.
3: Fukuta H, Mitsui R, Takano H, Hashitani H. Exercise-induced sympathetic dilatation in arterioles of the guinea pig tibial periosteum. Auton Neurosci. 2019 Mar;217:7-17.