(公社)生体制御学会第279回定例講習会に参加してきました

平成28年3月6日(日)(公社)生体制御学会第279回定例講習会(愛知県鍼灸生涯研修会)に参加してきました。

(公社)生体制御学会第279回定例講習会
(愛知県鍼灸生涯研修会)
 

 
9:30~10:20 基礎生理学
生理学トピックス
「心拍変動について(4)」
名古屋市立大学大学院医学研究科
医学・医療教育学分野研究員
 (公社)生体制御学会経理部長
山田 篤先生 

今日は、心拍変動についてお話しをいただきました。
「心拍変動とは、横になるなど安静にしているときは心臓の鼓動が遅くなり、運動した時などは心臓の鼓動が速くなります。これが心拍変動で、心臓の一拍、一拍の間隔を心拍間隔といいます。心拍変動のペースメーカーは洞結節が行っており、ここに影響を与えるのが自律神経になります。
心拍変動解析をすると、0.04~0.15HzをLFといい、心臓副交感神経と心臓交感神経の両方の働きをみることができます。0.15~0.4HzをHFといい、心臓副交感神経の活動のみをみることができます。また、LF/HFは心臓交感神経の指標となります。この3つの指標で世界で心拍変動の様々な研究が行われています。 
2009年に心拍変動のシステマティックレビューが出されました。その中で、得気を得ることが鍼治療の前提であること、心拍変動に鍼刺激は影響を与えるか否かはわからないことが書かれていました。
それに対して、黒野保三先生は2011年にオートノミックニューロサイエンス誌に「膻中穴への鍼刺激は、心拍変動における心臓迷走神経成分を増加させ、中庭穴では増加しない」と題して、得気を得ない鍼刺激(筋膜上圧刺激)が副交感神経を亢進させることを報告しました。その中で、膻中穴と中庭穴を用いて、鍼刺激前後の心拍変動をみたところ、膻中穴では、心臓副交感神経を亢進させて、中庭穴では心拍変動に変化がないことを報告しています。
次に2012年に中脘穴、天枢穴(左右)、気海穴の4穴を用いて鍼刺激をしたところ、心臓副交感神経の亢進がみられたことを報告し、2015年には中脘穴のみ、天枢穴のみ、気海穴のみで鍼刺激をしたところ、中脘穴のみに心臓副交感神経の亢進が認められたことを報告しています。
これらのように、筋膜上圧刺激を用いた鍼刺激は、心臓副交感神経を亢進させることがわかってきています。」という主旨のお話を、詳しく説明していただきました。


 

10:30~12:00 基礎生理学
「神経科学の基礎(5) 運動と高次機能」 
(公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座
愛知医科大学生理学講座教授  
岩瀬 敏 先生

今回は大脳皮質について教えていただきました。
「大脳皮質は新皮質、旧皮質、古皮質の3つに分けられており、新皮質は人間であることを特徴づける機能を多くもっています。新皮質は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つに分けられています。前頭葉は主にアウトプットする働きをもっています。考えたことを外に表現することを主に司っています。頭頂葉は主に空間的知覚を司っています。目で見たとき、どっちに何が飛んでいるのか分かるように空間の位置を特定する機能を主に司ります。後頭葉は視覚を司ります。側頭葉は主に記憶を貯めこむ場所として機能しています。
眼優位性というのがあり、7歳くらいまでの小さいときに眼を怪我しても眼帯をしてはいけません。なぜなら、眼帯をしてしまうと、その後に眼は完全に治っても、脳が見る機能を失ってしまって眼がみえなくなることがあるからです。このことを眼優位性といいます。
頭頂葉には上頭頂小葉があり、自分の身体と手足の位置を感知しています。例えば、上頭頂小葉が障害されると、目を閉じた時に自分の手足がどこにあるのかわからなくなってしまうということが起こります。頭頂葉の縁上回は声帯やのどの筋肉をどのように使うのかを司ります。頭頂葉の角回は読み書き中枢で、ここが障害されると会話に異常はないのに、読み書きをするときに異常がみられるようになります。目でみた画像から文字を読み取ることができなくなるのです。
大脳半球優位性というのがあり、左脳は言語情報、単語解析、数字、文字、論理的なものを司り、右脳は非言語情報、音楽、画像、絵画、声の強さ、直感などを司ります。しかし、俗に言う右脳派、左脳派というのは存在しないことがわかっています。」など大脳皮質について教えていただきました。

            
13:00~13:50 循環器疾患の基礎・臨床、診断と治療
循環器の基礎・臨床、診断と治療
「血圧測定の意義5」
(公社)生体制御学会研究部循環器疾患班副班長 
加納俊弘 先生 

今回は、血圧測定の意義5と題して、前回までの復習として、血圧測定の基礎的な注意点についてと閉塞性動脈硬化症で特徴的にみられる下肢の血圧についての説明がありました。
また、鍼治療前後の血圧測定の重要性と、高血圧と糖尿病を併発していた症例について、臨床経験をもとに教えていただきました。
        

14:00~14:50 循環器疾患に対する症例報告及び症例検討
循環器疾患に対する症例報告及び症例検討
「精と不安神経症」
愛知漢方鍼医会代表      
高橋清吾先生
 
今回は「精と不安神経症」と題して、腎と精と血の関連についての解説と、不安神経症との関わりについて、東洋医学的な視点から臨床の経験を踏まえて報告がありました。


 

15:10~16:00
鍼灸学校学生向け企画 婦人科疾患の基礎と臨床
「不妊のための鍼灸 自律神経について」
明生鍼灸院副院長
木津 正義 先生

今日は不妊治療と自律神経について、流産について教えていただきました。
「不妊治療は少なからずストレスがあり、ストレスは自律神経や精神的に影響を及ぼします。明生鍼灸院では、エジンバラ産後うつ病自己調査票を用いて不妊症の方の精神的ストレスと鍼灸治療の効果をみました。エジンバラ産後うつ病自己調査票は、30点満点で9点以上が高得点と見なされ、産後うつ病を疑います。不妊症の患者さん321人にこのエジンバラ産後うつ病自己調査票をやってもらったところ、9点以上の高得点だった方は妊娠率25%、8点以下の低得点だった方は36%でした。また、不妊症の方は初診時平均7.4点でしたが、3ヶ月鍼灸治療をすることで平均5.8点となり、減少率は22%(P<0.01)となりました。このように鍼灸治療では、不妊症患者さんのストレスを和らげる効果も見込めます。 
流産は全妊娠の約15%に起こります。妊娠経験の女性の約4割は流産経験があるという報告もあります。また、流産の約9割が妊娠12週までに起こります。私たちは、妊娠中に鍼灸治療しても大丈夫なのか?流産率はどうなのか?を調査しました。その結果、自然に流産をしてしまう割合と特に変わることはありませんでした。また、オーストラリアで583例の妊娠12週以内の方を対象に鍼灸治療と流産率を調査したところ、鍼灸治療で流産率は変わらないとの報告もあります。
私たちはこの場合は対応を気をつけます。それは、鍼灸治療が初めての方で、流産経験があり、妊娠初期の方から連絡があった場合です。なぜなら、全妊娠の15%の方は流産があり、それらの多くは染色体異常なので、鍼灸治療で流産を誘発することはありませんが、勘違いをされてしまう可能性がある場合はよく考えて対応をして、丁寧にお断りをする場合があります。」という主旨のお話をいただきました。


 

このマークのついている先生は東洋医学研究所®グループに所属しています。