来院患者の実態調査 東洋医学研究所®グループ 栄鍼灸院 院長 石神 龍代
はじめに
今年の4月5日に愛知県において設立された一般社団法人生体調整機構制御学会の代表理事であります黒野保三東洋医学研究所®所長より「医療の水際での鍼灸施術の実際について、真実を知るために、素朴なことでもよいから第一歩から始めよう」とご提案を頂き、鍼灸院を訪れる患者さんの実態調査を21鍼灸院のご協力を得まして行いました。
調査方法
2009年1月~5月までの5ヶ月間に来院された新患さん、及び3ヶ月以上間の開いた再診患者さんの性別・年齢分布・主訴・自覚症状と、初診時における健康チェック表の分析を行いました。
結 果
・性別・年齢分布
対象となりました患者さんは637名で、男性265名、女性372名であり、男女比は1:1.4で、女性の方が多く来院されていました。最小年齢は0歳、最高年齢は94歳で、平均年齢50、5歳でした。年齢分布は30歳代から70歳代が多い山形パターンを示しておりました。
私たちは過去にも、1996年に703名を、2004年に1436名を対象に調査をおこないましたが、男女比はそれぞれ1:1.5、1:1.9であり、女性の方が多く来院されていました。年齢分布はいずれも50歳代を頂点とした山形パターンを示していましたので、今回の調査で鍼灸院来院患者さんの年齢が若年化している傾向が伺えました。
・主訴・自覚症状
来院動機であります主訴の上位10項目は、腰の痛み、肩の痛み、肩のこり、頚の痛み、膝の痛み、上肢の痛み、背中の痛み、頭の痛み、下肢の痛み、上肢のしびれの順となっていました。このように鍼灸治療の適応症として一般的に知られている痛みに関する症状が上位を占めていました。
腰の痛みに関しては、現在国内で推定3000万人にも上るともいわれ、2004年の厚生労働省の調べによりますと、65歳以上の5人に1人が腰痛で悩んでいるとのことであります。
今回の調査でも60歳代・70歳代の人が多く来院されていました。
肩の痛みに関しては、30歳代~50歳代になると、加齢によって、肩の周囲の筋肉の機能低下が起こり始め、同時に、筋肉や腱の柔軟性も失われてきますが、この年代では仕事や家事を中心的に担うほか、スポーツなども活発に行っている人が多く見られ、そのため肩にかかる負担が大きくなり、肩の痛みが起こりやすくなるといわれています。
今回の調査では40歳代~60歳代の人が多く来院されていました。
膝の痛みに関しては、日本では膝に痛みを持つ中高年の人が約1000万人いるといわれ、その殆んどが変形性膝関節症が原因であり、特に女性に多く見られるとのことであります。
今回の調査でも70歳代の女性が多く来院されていました。
頭の痛みに関しては、女性が多く、緊張型頭痛・片頭痛が多いといわれていますが、今回の調査では30歳代・50歳代の女性が多く来院されていました。
そのほか、不妊,不眠、めまい、アトピー性皮膚炎、手術後の体調管理など、145に及ぶ多彩な主訴の改善を求めて来院されていること、また、それらに伴う多彩な自覚症状を抱えておられることも明らかとなりました。
・初診時における健康チェック表の分析
次に637名のうち435名にご協力頂きました50の質問項目からできている健康チェック表の記入率につきましては、今回の調査、1996年の調査、2004年の調査のいずれにおいても、高い順に(43)肩や首筋がこる、(44)腰や背中が痛くなる、(30)目がつかれる、(29)自分の健康のことが気になる、(5)下痢、あるいは便秘をする、(9)足がだるい、(10)仕事をすると疲れてぐったりする、(45)手足に痛みやシビレがある、 (25)頭重や頭痛があるの項目になっていました。
特に(43)肩や首筋がこるは、今回の調査では74%、1996年の調査でも74%、2004年の調査では76%の記入率でありました。
黒野保三東洋医学研究所®所長の行われた「太極療法として黒野式全身調整基本穴」「無兆候・有訴群に対する鍼治療の治験」の研究において、肩こりは、無兆候・有訴群患者さん、自律神経失調症患者さん、消化器疾患患者さん、呼吸器疾患患者さんにおいて、いずれも自覚症状の首位を占めていました。
2001年の厚生労働省の調べによりますと、自分の体の気になる症状で、多くの人が訴えているのが肩こりであり、特に女性は男性の2倍以上の人が肩こりに悩み、15歳から64歳までの幅広い年代の人が最も気になると答えています。
また、2007年の厚生労働省の自覚症状の有訴者率の調べにおきましても、男性では「腰痛」が最も高く、次いで「肩こり」、女性では「肩こり」が最も高く、次いで「腰痛」となっています。
おわりに
黒野保三東洋医学研究所®所長は、ストレス社会ともいわれる現代は、いわゆる不定愁訴を訴える人が多くなり、それらの人々が鍼灸院を訪れるケースが増加していることに着目され、1986年 (社)全日本鍼灸学会研究委員会並びに愛知地方会研究部に不定愁訴班を新設され、不定愁訴に対する鍼灸治療の実証医学的研究の可能な不定愁訴カルテ(健康チェック表、重症度判定基準、効果判定基準)を作成されました。
それ以来、この不定愁訴カルテを使用して、一例報告を含め、多くの臨床医学的研究が集積され、種々の不定愁訴に対し、鍼灸治療が有効であることが実証医学的に明らかにされてきました。
黒野保三東洋医学研究所®所長は、長年の実証医学的研究から鍼灸治療の治効メカニズムについて、鍼灸刺激はポリモーダル受容器を介して生体の統合的制御機構を賦活するであろうと提唱しておられます。
生体の統合的制御機構については「人体には全身を制御する仕組みのほか、各臓器や各器官にもそれぞれ制御の仕組みがあり、遺伝子や細胞に至るまで2の10兆乗ともいわれる多様な制御の仕組みが存在している。それらの制御系は恒常性維持機構、免疫系維持機構、自然治癒機構の三種類に大別することができる。この三種類の機構が互いに関連しあい、統合的に働いて生命を維持している。これらをさらに制御している上位の制御系として統合的制御機構の存在を想定している。」と述べておられます。
充分な睡眠、バランスのとれた食事、適度な運動、精神の安定によって私たちは健康を保つことができます。それでも身体に何かの変調を感じたときには、病気を水際で食い止めるために、第一選択として統合的制御機構の活性化を目的とした生体機構制御療法(黒野式全身調整基本穴)の鍼治療をお受けになることをお勧めします。