第28回生体調整機構制御学会に参加して 東洋医学研究所®グループ二葉鍼灸療院 院長 皆川 宗徳
平成22年8月29日(日)、晴天の中、名古屋市立大学医学部講堂(図書館3階)において、第28回(社)生体調整機構制御学会学術集会が約500名の参加者を得て開催されました。この学術集会に実行委員の一人として参加し、また、シンポジウムのシンポジストとして発表の機会を頂きました学術集会長の黒野保三先生に心より感謝申し上げます。
今回、コラムを担当させて頂くにあたり、シンポジウムについて紹介させて頂きます。
本学術集会のシンポジウムは「鍼刺激の自律神経に及ぼす影響」をテーマに行われました。シンポジウムの冒頭に、座長の黒野保三先生から長年に亘るご研究の貴重な講演がありました。
はじめに「超音波と鍼の併用による鎮痛効果について」(1973年)の研究のお話があり、この研究は1961年から始まった研究で、昨今EBM(科学的根拠に基づいた医療)の実践の必要性が言われていますが、この当時(49年前)からEBMの実践、効果判定基準に基づいて鍼治療の有効性を客観的に証明されています。
黒野保三先生の50年に亘る多くの研究業績は、臨床鍼灸の現場で得られる摩訶不思議と思われる現象の理論の追求すなわち「真実の探求」に終始一貫した研究であり、今回その一部を紹介されました。
「生体制御療法の治療原則」
「鍼灸師の熟練者とそうでない者の技術の差」
「長期鍼治療継続患者の自覚症状と第三者の評価」
「マウスに対する鍼治療により老化を抑えた基礎研究」
「鍼治療継続年数と風邪症候群罹患回数の変化」
「血行動態に対する鍼治療の検討」
「鍼灸院における睡眠に対する鍼治療の実態調査」
「鍼灸医学・臨床鍼灸の基本」
以上のように様々な角度からの基礎・臨床研究の報告があり、次に黒野保三先生が報告された研究に関わる基礎研究について各シンポジストから最新の研究報告がありました。
最初に、福田裕康先生は、「長期鍼治療による神経制御の持続変化―高血糖ラット胃平滑筋運動に対する鍼治療の効果―」と題して、高血糖ラットにおいて、糖尿病の進行にともなう変化が、長期間鍼治療を行うことにより改善され、持続するという研究結果を紹介され、次に甲田久士先生は、「胃電図を指標とした鍼刺激の自律神経に及ぼす影響」と題して、腹部への鍼刺激による胃電図の変化を調べ、胃運動を客観的に捉えた研究結果を紹介され、次に私は、「新しい心臓副交感神経の指標DCについてー腹部鍼刺激に対する自律神経反応の評価―」と題して、腹部鍼刺激に対する自律神経反応の評価として、鍼刺激により心臓副交感神経がどのように作用するかを客観的に捉えた研究結果を紹介し、次に石神龍代先生は、「経穴の特異性の検討―ダン中穴と中庭穴との比較検討―」と題して、心拍変動解析を用い、鍼刺激の自律神経に及ぼす影響が、経穴の特異性を有しているという研究結果を紹介されました。
今回、シンポジストとして研究報告をさせて頂きましたが、臨床鍼灸の現場で得られる現象を正しく捉えることと、この現象を実証医学的に証明するための基礎・臨床研究をどのように計画し研究していくのかという研究の方法論を、黒野保三先生の研究業績を紐解くことによって考えることができるようにならなければと痛感しました。
黒野保三先生は研究のあり方について、自然現象(鍼灸現象)が正しければ、そこに必ず自然科学の理論があり、それを追求する姿勢こそが真の研究といえると強調されました。
シンポジウムでお話されたことを今一度深く認識し、鍼灸施術の水際の現象を正しく整理し、実証医学的に検証していくことが出来るように、日々精進してまいりたいと思います。