抗ヒスタミン薬の効かないかゆみ 東洋医学研究所®外部主任 中村 覚
はじめに
かゆみは非常に不快な感覚であり、「痛みはがまんできるけれど、かゆみはがまんできない」と言われるほどです。かゆみを起こす代表的な物質としてはヒスタミンがあり、そのため多くの抗ヒスタミン薬(ヒスタミンを抑える薬)が開発されていますが、慢性で全身性のかゆみに対しては奏功しないこともあり、多くの患者さんが悩んでいます。
治りにくいかゆみが注目されています
平成25年5月15日(水)にNHK総合で放送されました「ためしてガッテン」では、「しつこ~い湿疹かゆみ まさかの犯人を大発見」と題して、原因不明と思われていた湿疹やかゆみが、本人が気がつきにくい物質によってかぶれを起こし、そのため長年苦しんでいた方の紹介がありました。気がつきにくいかぶれの正体は、遅発性のかぶれと呼ばれるもので、いくつかの特徴があります。
① 原因物質に触れてから症状が出るのは翌日以降である。
② 原因物質に触れていなくても症状が2週間続くことがある。
③ 日常使用している物質が、ある日突然かぶれの原因物質になることがある。
原因となる物質に触れてもすぐには湿疹やかゆみが出ないので気がつきにくく、原因として疑って1週間使うのを止めても症状が変化しないため、気がつくのが遅れてしまいます。また、使い始めはまったく問題なかった物質が突然かぶれの原因になるなんてことは思ってもみないことでしょう。
番組内で紹介された方の湿疹やかゆみの原因物質としては、化粧品、目薬、皮膚炎の塗り薬でした。原因物質を発見できたことによって症状を改善することができました。
このように、原因と治療がかみ合えば、ちゃんと効果を発揮することができるわけですね。
今回タイトルになっている「抗ヒスタミン薬が効かないかゆみ」も、原因と治療がかみ合わないことによって現れてきます。
かゆみの分類
かゆみは臨床的に次のように、おおまかに分類されます。
①皮膚疾患に伴うかゆみ: 乾癬、アトピー性皮膚炎など
②全身疾患に伴うかゆみ: 肝障害、腎不全など
③神経障害に伴うかゆみ: 多発性硬化症、帯状疱疹など
④精神疾患に伴うかゆみ: うつ病、寄生虫妄想症など
このように、かゆみは色々な疾患を原因として発症していることがわかります。また、原因となっているそれぞれの疾患の治療が難しく、そのこともかゆみが治りにくい要因になっているのだと思います。
ヒスタミンについて
ヒスタミンは主に肥満細胞と呼ばれる細胞の中に入っており、花粉などのアレルゲン(アレルギーを起こす原因物質)が体内に入ったことをきっかけに肥満細胞の中から放出され、かゆみを起こすなどの色々な働きを起こします。その働きを起こす場所にはヒスタミンがくっつくポイントがあります。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンがそのポイントにくっつかないようにすることでかゆみやアレルギー症状を抑える効果を期待して処方されます。
なぜ抗ヒスタミン薬が効かないのか?
ヒスタミンがくっつくポイントは4種類あり、それぞれH-1、H-2、H-3、H-4と名前がつけられています。現在、処方されている抗ヒスタミン薬はH-1のみに作用してくっつかないようにする働きがあります。つまり、H-1以外の原因で起こってくるかゆみには効かないということになります。
また、アトピー性皮膚炎や慢性腎不全、乾燥肌によるかゆみはヒスタミンを介さない場合が多いので、抗ヒスタミン薬が効かないのです。
ちなみに、テレビCMでおなじみの「ガスター10」は、同じヒスタミンに作用しますが、H-2をブロックすることで胃痛、胸焼けへの効果を期待しています。もちろんかゆみには効きません。
乾燥肌によるかゆみ
秋から冬にかけては肌がカサカサになってかゆみがでてきます。いわゆる乾燥肌ですね。乾燥肌では、ちょっとした刺激で強いかゆみが出てきますが、このかゆみもヒスタミンを介さないため、抗ヒスタミン薬が効かないのです。
乾燥肌によるかゆみについては平成17年12月号コラム「かゆみ」を参照して下さい。
保湿外用薬を使うと皮膚の水分が増えて、かゆみを感じにくくしてくれるので、是非お試しください。
スキンケアについては平成19年7月号コラム「スキンケア」を参照して下さい。
鎮痛剤(モルヒネなど)によるかゆみ
がんの痛みなどにモルヒネという鎮痛剤が使われますが、モルヒネを使うと強いかゆみが出てきます。このかゆみもヒスタミンを介さないため、抗ヒスタミン薬が効かないのです。
おわりに
今回は、抗ヒスタミン薬が効かないかゆみについてお話させて頂きました。
かゆみの原因と治療がかみ合わないと効果が現れないことがわかります。
抗ヒスタミン薬に抵抗性を示しやすい人工透析患者さん、アトピー性皮膚炎患者さんや、老人性の皮膚掻痒症の患者さんのかゆみが、鍼治療によって改善されることをよく目にします。
そのメカニズムは明らかではありませんが、東洋医学研究所®黒野保三所長が提唱されている鍼刺激による脳を介した統合的制御機構へのアプローチによって症状が改善されるのではないかと思います。
東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループでは、全身の調整を目的とした生体制御療法を行っております。
薬の効果がないかゆみをあきらめずに、是非、副作用のない鍼治療を受けられることをお勧めします。
引用・参考文献
宮地良樹編:臨床医必携「全身とかゆみ」.2011.診断と治療社
NHK総合ためしてガッテン:http://www9.nhk.or.jp/gatten/