鍼と自律神経 平成27年3月1日号 東洋医学研究所®グループ 二葉鍼灸療院 院長 皆川 宗徳
鍼刺激により、胃や腸の動きが活発になるとか、よく眠れるという現象は臨床鍼灸の現場でよく遭遇します。このメカニズムを考えるときに、東洋医学研究所®所長黒野保三先生は、この現象は鍼刺激により、自律神経の副交感神経活動を亢進させているのではないかという仮説を提唱されてきました。
このメカニズムを解明するために、鍼刺激が副交感神経活動にどのような影響を与えているのかの基礎研究を、名古屋市立大学大学院医学研究科医学・医療教育学分野教授の早野順一郎先生との共同研究で開始され、鍼刺激により副交感神経活動が亢進することを客観的に証明し、論文3編を国内外に発信されておられます。
この論文における鍼刺激の手技である筋膜上圧刺激により副交感神経活動が亢進するという研究結果は世界初であり、鍼刺激と自律神経との関わりが深いことがわかります。
さらにここで、痛みと自律神経との関わりをご紹介させていただきたいと思います。
昨年、8月31日に開催されました第32回(公社)生体制御学会学術集会におきまして、名古屋大学動物実験支援センター教授の佐藤純先生に「天気と痛み 自律神経系との関わり」と題して特別講演(市民公開講座)をして頂きました。佐藤先生はこの講演の中で、「慢性痛症状が天気の崩れによって悪化すること(天気痛)がよく知られているけれども、臨床研究では疼痛悪化と天気の関係について一定の結論が得られていないのが現状である。ラット,マウス,モルモットを用いた基礎研究によって、気圧と慢性痛の因果関係について科学的実証を試みた結果、天気痛を引き起こす原因は耳の奥にある内耳にあることを世界で初めて発見した。気圧が変化すると、内耳にある気圧センサーが興奮し始め、脳が混乱してしまう。このストレスが持病や古傷がある場所の痛み神経につながっている交感神経を興奮させて、普段は痛まないところに痛みを感じるようになる。」と述べておられました。ここでも天気痛と自律神経活動との関係が深いことがわかります。
この天気痛については、平成27年1月21日(水)NHKの『ためしてガッテン』でも紹介されました。
最も鍼灸診療に関わりがある痛みを伴う疾患に対する実証医学的研究は、黒野保三先生が46年前に開始され、鍼治療が疼痛疾患に対して有効であることを証明されています。
鍼刺激が、副交感神経活動を亢進するという研究結果と、疼痛疾患に対して有効であるという研究結果から、自律神経と深く関わる天気痛に対しても効果があるものと考えられます。
現在、医学・工学の連携により、痛みと自律神経分野の研究が飛躍的に進歩発展している中、今後、鍼刺激による自律神経反応の評価研究も進めていきたいと思います。
黒野保三先生が培ってこられた基礎・臨床研究を紐解きながら、感性を養い、研究仮説を立てていけるよう日々精進したいと思っております。
参考文献
1)Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J.Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. AutonNeurosci.161. 116-120:2011
2)黒野保三、各務壽紀、皆川宗徳、石神龍代、山田 篤、早野順一郎:心拍変動解析による鍼刺激に対する自律神経反応の評価―腹部鍼刺激に対する自律神経反応の評価―.自律神経,49:251-256.2012
3)Minagawa M, Kurono Y, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Akai R, Hayano J.Site-specific organ-selective effect of epifascial acupuncture on cardiac and gastric autonomic functions.AutonNeurosci.179(1-2).
151-154:2013
4)黒野保三:超音波と鍼の併用による鎮痛効果について,自律神経雑誌20(4);85-97.(1973)