お天気と体の関係 東洋医学研究所®グループ かどむら鍼灸院 院長 角村 幸治 平成27年11月1日号

「天候が悪いときは体がだるくて・・・」、「天候が悪くなるときに頭痛がする、持病のリウマチが痛い」、こんな話を一度は聞いたことがあると思います。また、経験している方も多いのではないでしょうか。今年の梅雨は7月に入って10日以上雨が降り続き、毎日雨というだけで憂鬱を感じる方も多くいました。また、梅雨明けから突然暑くなり、急激な温度変化についていけず、体を壊す方もいます。
このような「天候が悪くなると体の調子が悪くなる」ということはかなり昔から知られています。どのくらい前かというと、2500年以上前に書かれた古代中国の「黄帝内経素問」という本にも出てきます。私は鍼灸の古典を研究していますが、「黄帝内経素問」の81章中39章と約半分に気象と体について書かれていました。
例えば、「人の生命活動と自然環境には極めて密接に通じる関係があり、どうやったら病気にならずに長生きできるのか?」、という疑問から、「春夏秋冬の季節の変化に順応すれば病気になりにくい、暑いときはきちんと汗を出すことで体に熱がこもりにくく病気になりにくい、寒いときはきちんと寒さから身を守ることで病気になりにくい(黄帝内経素問第2章)」など、今にも通じる自然とうまくやっていく方法が多く書かれています。

昔はクーラーも暖房もホッカイロもなかったのでどうやったら自然と仲良く順応していけるのかという点で今よりも真剣に考えていたように思います。
最近、気象と体について研究が進んできています。2004年の(株)テルモの調査によると、「天候や気候の変化は体調と関係がある」と思っている人は81%と多くの方が気象と体について関係があると感じています。
実際に気象の変化で体調が悪くなる症状としては、①寒くなると肩がこる、②天候が悪い日が続くと憂鬱な気分になる、③乾燥すると全身がかゆくなる、④天候が悪くなると古傷が痛み出す、⑤天候が変化すると関節が痛くなるというような症状を感じています。
ドイツのHoppeらは気象の健康への影響を2002年に詳細に調べています。1046名への聞き取り調査で、54.5%の方が気象の変化が健康に影響すると感じていました。気象は低気圧の時と、雨が降る時に大きく影響を受け、頭痛が出やすい(61.3%)ことがわかっています。ついで、うつ(27%)、めまい(26%)、集中力障害(26%)と、痛み、自律神経、精神症状に影響を及ぼしていることがわかりました。
このように、ドイツは気象と体についての研究が進んでおり、「健康予報」というものがあります。その中で特に「健康予報」を取り上げているのはドイツの全国紙の1つである「フランクフルターアルゲマイネ新聞(Frankfurter Allgemeine Zeitung)」の健康天気予報欄になります。
日本においても花粉症情報や熱中症情報、インフルエンザ情報などが予報されますが、フランクフルターアルゲマイネ新聞では、リウマチ、関節痛、筋肉痛、喘息、頭痛、めまい、血圧の変化などの病気の予報の他、精神状態(晴れやかになる、陽気になる、気分が悪くなるなど)、神経質、不眠、やる気(出てくる、なくなる)など精神的なものも予報の中に入っています。
日本とドイツでは気象が違うので、我々はHoppeらの報告を見て、日本においても同じような傾向になるのかを調査し、2015年8月の第33回(公社)生体制御学会学術集会において発表しました。 
東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループの鍼灸院に来院された方の1013名中320名の方が「気象の変化で体の調子が悪くなる」と感じており、約3人に1人の割合でした。この方々はめまい、頭痛、胃腸症状、だるさ、精神症状、肩こり、腰痛など様々な症状が出やすいことがわかりました。
この気象の変化による調子の悪さは自律神経が深く関わっており、黒野保三先生の研究により、鍼治療により自律神経が整うことがわかってきています。気象の変化で体の調子が悪くなる方は鍼治療を試してはいかがでしょうか。

引用・参考文献
・石田秀美.現代語訳 黄帝内経素問.東洋学術出版社.序文.2006.
・https://www.terumo.co.jp/pressrelease/2004/023.html((株)テルモ、健康と気候に関するアンケート)
・P.Hoppe, S.von.Mackensen, D.Nowak, E.Piel.Pravalenz von Wetterfuhligkeit in Deutschland.2002(ドイツでの気象感受性の発症)
・角村幸治.石神龍代.平松英敬.中村覚.各務壽紀.赤石望.高山加奈子.渡辺かおり.黒野保三. 気象の変化と不定愁訴について.第33回(公社)生体制御学会学術集会抄録集.2015
・Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J. Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. Autonomic Neuroscience:26(1・2).2011:116-20.