運動しましょう ~活性酸素は悪者なのか?~ 平成29年3月1日号 東洋医学研究所®グループ二葉鍼灸療院 院長 田中 良和
◇はじめに◇
前回は、過激な運動をはじめ日常生活習慣の多くの要因で活性酸素が体内で発生し、その抑制にはスカベンジャー酵素群というものが働き、うまく身体のバランスを保つ機能があることをお話しました。
そこで、今回はこの活性酸素の働きについて詳しくみていきましょう。
◇活性酸素は悪者なのか◇
活性酸素は身体を酸化(サビ)させ、細胞膜や遺伝子を傷つけ、病気発生の原因物質となります。しかし、体内での働きはそれだけではありません。
・酵素活性のシグナルとして働く
酵素は細胞内で作られますが、常に働いている酵素ばかりではありません。不活性酵素として常備されているものもあります。活性酸素(スーパーオキシド・過酸化水素)は必要な場面で、これらの酵素活性シグナルとして働きます。これらの働きが必須な場面は、血管新生、精子の形成、免疫作用、細胞のアポトーシス(細胞死)などです。
・細菌感染を防御
過酸化水素は酵素の働きにより、殺菌効果の高い次亜塩素酸イオンへ変化します。また、白血球の一つで生体制御に重要な細胞である好中球は活性酸素を産生し殺菌作用を獲得します。
・血圧の調整
血管内皮細胞によって産生される一酸化窒素とスーパーオキシドのバランスにより血圧が調整されています。一酸化窒素の量が多くなると血管平滑筋は弛緩し、血圧が下がります。その一酸化窒素と反応して量を調整するのがスーパーオキシドです。つまり血管の内径や弾力性を制御する一酸化窒素の量を調節し、血液の流れを左右する物質でもあります。
これら活性酸素の働きをみると、ただの悪者ではないことが理解できると思います。
◇活性酸素と疲労◇
近年のトピックスとしては、オーバーワーク状態などで(運動、仕事等)活性酸素が大量に発生する状況下では、ミトコンドリア電子伝達系が阻害され、細胞機能に低下が生じる結果、疲労感や身体的パフォーマンス低下などの疲労症状が出現すると考えられています。
また、疲労は活性酸素が細胞を酸化した時に発生する疲労物質(ファティーグ・ファクター;FF)がシグナルを送ることで脳が疲労を感じることが分かったことを、2008年に国際疲労学会で東京慈恵医科大学の近藤一博教授が発表されました。この辺りのお話は次回行いたいと思います。
◇おわりに◇
活性酸素はあらゆる病気の原因物質の一つとされていますが、適量であれば、それは身体に有利に働き、過剰になれば不利に働くことがご理解できたのではないでしょうか。運動、睡眠、食事など生活習慣を整えることが過剰な活性酸素の産生を防ぎます。そして、日々の臨床鍼灸の現場で「体が軽くなった」「疲れにくくなった」「元気になってきた」と患者さんが話してくれます。
鍼灸治療は活性酸素の調整にも一役かっているのかもしれません。東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループが行う鍼治療(生体制御療法)を日常生活にご活用いただき、心地よい、元気な人生を送っていただきたいと思います。
参考文献
・黒野保三他 生体の防御機構と鍼灸医学 全日本鍼灸学会雑誌41(1);234-244.(1991)
・瀬名秀明,太田成男 著:『ミトコンドリアのちから』2007.9.新潮文庫
・大谷肇 著:『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』2013.9.風詠社
参考HP
・大阪市立大学大学院 医学研究科 疲労医学講座
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/fatigue/
・厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書