記憶の不思議4 -物忘れを防ぐ方法-平成29年4月1日号 東洋医学研究所®グループ いちえ鍼療院 院長 内藤 真次
はじめに
年をとると、「あれ」「これ」などという代名詞が多くなります。
いわゆるノドまで言葉が出かかっているのに思い出せなくて、「あれ」と言ってごまかしてしまうのです。これは、記憶の管制塔である前頭葉という脳の一部がパニック状態に陥っている証拠です。
ゆっくり落ち着けば思い出せることもあるのに、そのゆっくりができないばかりか、つい面倒くさくなってしまい、思い出すことを放棄してしまうのです。それで、「エエ~イッ、面倒くさい、あれだよ、あれ!!」とつい口走ってしまうことになるわけです。
こうしたど忘れを少しでもなくすためには、①落ち着くこと②覚える練習、思い出す練習をすること③日頃から「あれ」を言わないで、具体的な言葉にするよう心がけることの三つの事に心がけることが大切です。
いつも心を落ち着いた状態にする
まずは常に、慌てず、ひと呼吸置くことを心がけます。「心」には一つの定義があります。それは、「心は同時に二つのことは考えられない」ということです。ところが現実は、同時に考えなければならないことがたくさんあります。そんな時、心は瞬間的に意識の強さによって、優先順位を決めて行動します。
「早く要件を言いたい」と「すぐ出てこない」の二者択一を迫られ、あせったり、イライラ感が高まると、「早く要件を言いたい」という欲求のほうが勝ち「あれ」と言ってすませることになるのです。ですから、まずはいつでも、あせらずゆっくりと脳がうまく機能するように、落ち着くことが大切なのです。
年をとると、つい面倒だという気持ちが出てきますから、「あれ」「これ」の代名詞が多くなります。ついつい言ってしまわないように、日頃から注意しましょう。「あれ」を言わないように心がけて、具体的な言葉で表そうと心がけていくと、「あれ」と言うことが減っていきます。
新聞コラムを書き写す効用
物忘れを防ぐには、日頃から「覚えること、思い出すこと」を心がけることが大切です。新聞を読んでも、ちょっと気になる用語や数字があれば、そこで「覚えてみる」ことです。また、メモ帳に記録することも効果的です。
特にお勧めするのが、新聞の一面のコラムを書き写すことです(朝日なら「天声人語」、中日新聞なら「中日春秋」、日経新聞なら「春秋」など)。
これは、言葉や漢字を覚える、文章の理解度を高める、文章を書き写すことで、自然と文章力が向上する、小論力が高まるなど、コラムの書き写しはいくつもの脳力を高める効果が期待できます。ぜひ試してみてください。
思い出すくせが記憶力を増やす
記憶について最も多い質問が「物覚えをよくするにはどうしたらいいか」「覚えたものを忘れないようにするにはどうしたらいいか」という内容です。
どちらも「記憶力をよくするにはどうしたらいいか」という内容ですが、一般に「記憶する」というと、頭のなかにインプットすることばかりに注目しますが、大切なことは、むしろアウトプットのほうなのです。
一般に記憶の過程は次の四段階です。
①記銘(記憶するものを覚えること)
②保持(記憶した事柄や内容を保存すること)
③再生(記憶した事柄や内容を思い出すこと)
④再認(記憶したものが同一のものかどうかの確認)
人間は、脳内物質の伝達によって、考えたり、推理したり、話したり、動いたり、走ったりという活動ができます。その脳内物質が何らかの異常で多くなったり少なくなったりすると、生活に支障をきたします。
記憶も同じで、記憶するのに必要な伝達物質が脳内で働いてくれています。水道のパイプをイメージしてみてください。記憶する量が少なければ、パイプは細くてすみますが、量が多ければ、パイプを太くしなければ間に合いません。また、パイプの中の流れもスムーズでなければなりません。
インプット(記憶)するだけでは、記憶のパイプは太くなりません。しっかりと記憶したものをカチッと定着、固定させるために、アウトプット (思い出す)練習をしたほうがよいのです。そうすることによって、パイプのなかの水はよりスムーズに流れるようになり、パイプも太くなっていくのです。
その意味で、「日記」を書くことは有効です。一日を振り返って、「朝は○○をして、昼間は○○をして、夜は○○をした」というように思い出すのです。
また、名刺交換をしたら、あとで名刺を見ながら、その人の顔や話した内容を思い出す習慣をつけることも大切です。勉強をした後も五分間は思い出す時間を設けるようにします。
そうしたことを確実に習慣化していくと、記憶力はもちろん、思い出す力(想起力)も同時に養うことができるようになります。
おわりに
物忘れを防止するには、毎日の習慣が大切です。新聞を読んだ後、本を読んだ後、人に会った後、勉強をした後など、必ず思い出す習慣をつけることが記憶のパイプを太くします。
人間の能力には差はありません。にもかかわらず、現実には差があります。その差がどこから出てくるのか? その理由の一つが、自分に対する信頼の差、つまり自信の差です。自分の能力を信じられる人と信じられない人では、同じ時間に同じ場所で同じことをしても、差が出ます。ですから、まずは自分にもできるという自覚を持つことが出発点になります。
今回ご紹介した、コラムを書くことと一日を振り返って日記を書くことなど、脳に良い習慣を身につけて、物忘れを防止しましょう。
引用文献
・椋木修三:できる人の記憶力の倍増ノート.PHP研究所.P4.18-19.44-45 2005.2