骨の強さを考える -骨の血流はどうなっている?- 東洋医学研究所®グループ 福田鍼灸院 院長 福田 裕康 平成29年11月1日号
心臓から送り出された血液は、脳、心臓、消化器、筋肉など各臓器に分配され、それぞれの臓器の役割を充分発揮できるようにしています。もちろん骨の中にも血液が流れております。では、骨の役割が十分発揮されるような血液のめぐりはどのように行われているのでしょうか。そこには、骨粗鬆症に代表される骨の病気の原因や治療のヒントが隠されているかもしれません。
骨の代謝に関わる血流
骨の役割としては、身体を支える、骨格として臓器を守る、骨髄で白血球・赤血球・血小板をつくるなどがあげられます。骨の構造をみてみますと表面を覆う白色の結合組織である骨膜、その内側で硬い骨質からなる緻密質と内部に骨髄を含む柔軟な骨質の海綿質から成り立っています。どの骨をとってみても骨の表面には虫が食ったような孔がぽつぽつとあいています。これらのうち、こまかい孔やくぼみは、骨膜から骨質に入り込む結合組織であるシャーピー線維が侵入する孔であり、輪郭がはっきりした直径1から2ミリの穴は細い血管が骨に出入りするためのもので、栄養孔とよばれています。この栄養孔から骨の代謝に必要な栄養血管が入って骨髄を収容している髄腔まで達しています。骨髄では造血幹細胞が毎日2000億個の赤血球をつくったり白血球や血小板もつくられ、ヒトにとって大切な血液をここで生成しています。このように、骨への大きな血流の作用は、骨の深部にまで入って常に活発に代謝活動を繰りかえすために使われています。
骨の強さに関わる血流
骨への血流には、もう一つ経路があります。骨格を保つために表層の硬い緻密質を維持し成長させていくための経路で、骨膜の動脈叢から直接、無数の細い枝がでています。この血管の進入路は非常に細くて肉眼的にはほとんど見分けられないものですが、骨への血流調節を調べるには、この骨膜での血管の動きが重要だと考えられます。骨膜は一番外側にありますが、骨の内部を保護するとともに、血管と神経が張り巡らされていて、骨に栄養を供給します。余談にはなりますが、弁慶の泣き所といわれる筋肉に覆われていないすねをぶつけると、とても痛かったことを思い出される方もたくさんお見えになると思いますが、それほど神経がたくさんあります。
この骨膜の血管を縮ませたり、緩ませたりする仕組みが、我々の研究から最近になって明らかになってきました。骨に血液を送る骨膜の動脈は、観察した半分ほどの動脈で何もしなくても血管を縮めたり、緩めたりして効率的に血液を流す仕組みを持っていました。さらに、たくさんある神経のうち交感神経が働くと血管がより縮まり、感覚神経のうちサブスタンスPという物質を放出できる神経が働くと血管が緩まることがわかりました。さらに、子供から成人に向かって成長していくなかで、この血管を緩める神経がより働くことがわかり、骨に栄養をたくさん送れる仕組みの一つということが明らかになりました。この仕組みを使って、骨粗鬆症など骨が弱ってきたときに骨が強くなる可能性について検討すると、骨粗鬆症が運動によって改善するかどうかというもう一つの研究のなかにヒントがありました。結論からいうと血管を縮めるはずの交感神経の働きのなかに、受容体(神経から出てくる神経伝達物質を受け取るところ)の違いを使って血管を緩める働きが出てくることがわかりました。運動による骨代謝の増加に対応して、骨血流増加を担う適応反応が生じている事が考えられました。
鍼治療をしていると骨折からの回復が早かったり、骨粗鬆症の進展がゆっくりになることを感じることがあります。骨膜の動態の解明と東洋医学研究所Ⓡでこれまで積み上げられてきた鍼治療の研究から、来る超高齢社会での一助になることが鮮明になってきたのではないでしょうか。