関連痛について -脳は「内臓の痛み」を「皮膚・筋肉の痛み」と勘違いする- 東洋医学研究所®グループ 二葉はり治療院 院長 甲田久士 平成30年7月1日号
はじめに
私たちは、ある場所に痛みの原因が加わるとその場所に痛みを感じます。しかし痛みを感じる場所と痛みの原因の発生した場所が違っているとしたら、痛みの原因を取り除くのはとても難しいことです。例えば、右指に虫ピンを刺したのに左足に痛みを感じるなどということが現象としてあってはいけないです。ところが、痛みの原因となる場所とは違う場所に痛みを感じることがあります。心臓に痛みの原因があるときには左腕に痛みを感じたりします。これを関連痛といいます。
今回は関連痛についてお話をさせていただきます。
関連痛の定義
内臓疾患により内臓に侵害刺激が加えられた際に、その内臓と離れた位置にあるのにもかかわらず、皮膚表面や筋肉に特別過敏な感覚や痛みを感じることがあり、この現象を関連痛と呼びます。
症状について
皆さんはこんな話を聞いたことはありませんか、また体験をしたことはありませんか。
「その痛みって、ひょっとしたら心臓の病気かもしれないわよ」「えっ、まさか......」
専業主婦のAさんは1年前から背中や肩の痛みに悩まされていました。整形外科を受診して検査をしても原因がわかりません。湿布薬で対処していましたが、痛みが治まらず、知人に何げなく相談しました。知人から「心臓の病気かもしれない」と言われたAさんが半信半疑で心臓の検査を受けたところ、狭心症と診断されました。
Aさんはときおり胸の痛みも感じていたようですが、背中や肩の痛みのほうが数倍強かったため、心臓の病気を疑うことはありませんでした。「心臓の病気で、心臓以外の場所が痛くなることがあるなんて、少しも知らなかったわ」とAさんは振り返ります。Aさんのケースのように、病巣や病巣の周囲から離れた場所の痛みが「関連痛」と呼ばれています。
狭心症や心筋梗塞で背中や肩の痛みが生じることはよく知られており、非外傷性で背部痛を呈する救急患者の48.1%が心血管系疾患だったという報告もあります。また胆石などの胆道系疾患による痛みはしばしば右肩甲骨下部に感じられます。膵炎や膵臓癌などの膵疾患では背部痛、肝臓癌などの肝疾患では右肩や背部痛が現れることが多いです(図1)。
内臓からの痛み信号が、そこから離れた場所の皮膚上の痛みとして感じられる。心臓に異変が起きた時、左胸や左手の内側の皮膚に違和感があったり、痛んだりすることがあります。逆に言えばそのような所が痛んだら、心臓の異常を疑うべきです。胃が悪い時には背中や胃のあたりの皮膚にも起こります。
このような背部痛などの関連痛は、"脳の誤認識"によって生じるといわれています。切る・刺す・叩くなどの機械的刺激による「体性痛」と臓器局所および周囲組織の炎症・出血・閉塞などに伴う「内臓痛」の痛み信号は、痛みの発生場所が違っていても、ともに脊髄視床路に入力されます。そのため、脳が内臓痛を体性痛として誤認識するのではないかと考えられています。
これには、皮膚の痛覚神経線維の数が豊富であるのに比べ、内臓の痛覚神経線維の数が非常に少ないことも関係しているようです。つまり、脊髄への痛みの入力は皮膚や筋肉由来のものが圧倒的に多いため、脳が内臓の痛みを皮膚や筋肉の痛みと勘違いすることも多くなるというわけです(図2)。
関連痛は、内臓からの痛み刺激信号の経路に原因があると言われています。内臓からの情報は、脊髄の中で皮膚からの情報を伝えるのと同じニューロンに入っている場合が多く、内臓からの情報と皮膚からの情報が一緒になって脳に伝えられてしまうのです。
おわりに
関連痛を疑うことは、病変のある位置と、体表の痛みを感じる位置の対応はほぼ決まっており、診断の上で非常に重要であります。痛みがいつ起こったのか、どのようなときに痛みが起こりやすいのか、内臓で気になるところはないかなどの問診が非常に重要だといわれています。痛みは我慢せずに適切な治療を受けることが大切です。
鍼治療には副作用もありません。黒野保三先生の生体制御療法は神経生理学・解剖学の基礎実験から実証医学的に証明された裏付けのある治療方法です。 痛みを感じたら我慢せず早期に治療を受けてください。鎮痛薬や湿布に頼らず鍼治療をお勧めします。
参考文献
・鈴木昌他、日本救急医学会雑誌2004:15:169-174
・上野浩一他、診断と治療2013:101:1619-24
・日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版)」金原出版
・住谷昌彦:ドクターサロン2013:57:429-33
・熊澤孝朗:いのちの科学を語る2 痛みを知る.2007.東方出版