生体制御療法を使用した鍼治療の研究3・・・糖尿病に対する鍼治療
今日の糖尿病治療の目的は一次予防(糖尿病の発症を予防する)と二次予防(糖尿病の合併症を予防する)および三次予防(合併症を管理して、重篤な臓器傷害の状態または死に至らないよう予防する)であります。
糖尿病治療は食事療法や運動療法が根本治療であり、現在のところ経口血糖降下剤やインスリン療法などの薬物療法以外に治療法がありません。
東洋医学研究所における現在までの糖尿病に対する鍼治療の基礎研究や臨床研究では、鍼治療により糖尿病動物および糖尿病患者に対し副作用などの悪影響がみられたことが全く無く、糖尿病に対する鍼治療の有効性を見出すことができました。
1)基礎研究
①ストレプトゾトシン糖尿病ラットに対する鍼治療の効果
糖尿病には多くの病型があり、病態も多種多様であり、ストレプトゾトシン処理による糖尿病はインスリン依存型といわれています。我々は鍼治療の糖尿病への有効性について検討するため、ストレプトゾトシン糖尿病ラットに対し鍼治療を行い、空腹時血糖値および体重の変化について検討しました。その結果、鍼治療群は対照群に比べ空腹時血糖値において有意な低下が認められました。また鍼治療群は対照群に比べ体重が増加する傾向にありました。さらに、鍼治療群に比べ体重1g当りの空腹時血糖値において有意な低下が認められました。
2)臨床研究
糖尿病は極めて複雑な疾患で発症には遺伝や環境が重要な因子となり、インスリンの作用不足を招き、糖負荷試験に一定の異常を示す病態でありますが、単純に定義できうるものではありません。
このことから治療効果を客観的に検討することは極めて困難であります。そこで、糖尿病に対する鍼治療の有効性を客観的に検討する目的で、慈恵医大第3内科糖尿病専門外来で池田義雄らが使用していました問診表および(社)全日本鍼灸学会研究委員会不定愁訴班・慢性肝機能障害班のカルテを参考に(社)生体調整機構制御学会研究部生活習慣病班糖尿病カルテを作成しました。
このカルテを用い糖尿病に対する鍼治療の有効性を検討した症例を紹介します。
①症例1(食事療法が不充分で症状が悪化した症例)
72歳男性 主訴:糖尿病で体がだるい
5年前に随時血糖値約300mg/dlで糖尿病と診断され、食事療法の指導を受ける。その後、食事療法が充分に行われず2ヶ月前に両手のしびれ、右の瞼が開かなくなり糖尿病性の脳梗塞と診断される。1ヶ月間入院し経口血糖降下剤と食事療法をおこなったが両手のしびれ、体のだるさがとれず鍼治療を開始する。
初診時の食後2時間血糖値は204mg/dl、糖尿病自覚症状点数は12点。6ヶ月の鍼治療により食後2時間血糖値が164mg/dl、糖尿病自覚症状点数は4点になった。
このことは鍼治療は糖尿病に対し有効であり、また糖尿病の自覚症状の改善に対しても鍼治療が有効であることが示唆された症例であります。
②症例2(インスリン療法による低血糖状態患者の症例)
68歳女性 主訴:糖尿病があり両膝が痛む
5年前に空腹時血糖値400mg/dlで糖尿病と診断され、入院治療
(インスリン療法・食事療法)によって空腹時血糖値は100mg/dlとなった。退院後もインスリン注射を継続している。
しかし、体がだるく疲れやすい、手足がしびれる、目がかすむ、膝が痛いという症状があるので鍼治療を希望して来院され、鍼治療を開始する。
初診時の食後3時間血糖値は64mg/dlであったことから、インスリン療法による低血糖が誘因と考えられ、糖尿病専門医の指示にしたがってインスリン注射の投与量を減らすとともに、鍼治療を行い全身管理をした。
5ヶ月間の鍼治療によって空腹時血糖値は94mg/dlと安定し、糖尿病自覚症状点数は10点から2点へ改善した。
このことは鍼治療は血糖値を正常な状態にコントロールしていく一つの手段となりえることが示唆され、自覚症状の改善に対しても鍼治療が有効であることが示唆された症例であります。