生体制御療法を使用した鍼治療の研究5・・・未病治に対する鍼治療

鍼治療による「健康・遅老」の健康管理および老化防止と生体防御機構の現象を基礎・臨床にわたり研究しました。

1.基礎研究

マウスの寿命は2~3年といわれており、月齢とともに組織・器官に老化による変化が現れることが知られています。2年間にわたって鍼治療を行ったマウスと何も治療しなかったマウスの膵組織、肝組織を摂取し、電子顕微鏡を用い比較観察を行いました。

月齢と共に膵外分泌細胞において、動物が若い場合には、細胞質内に限界膜のない結晶構造が出現しますが、この結晶構造が老化によって幼若化し繊維構造に変化しましたが、鍼治療を施したものにはこの繊維構造が観察されませんでした。

同様に膵島細胞の大食細胞も鍼治療によって活発化して貪食能が増加し、異物を多量に貪食して肥大します。また、大食細胞と脂質貯蔵細胞とが互いに接近して隣接する所見が認められました。

対照群
(鍼治療を施さなかったグループ)
マウスの膵外分泌細胞の結晶が繊維化(矢印)している。11,000倍
鍼治療群のマウスの膵外分泌細胞内の結晶構造(矢印)15,000倍

通常は細胞質内の結晶は老化によって繊維成分に変化するが、鍼治療によって再び結晶構造が見られるようになった。

鍼治療群のマウスの膵臓の間質結合組織内・外分泌部に出現した大食細胞(MP)とリンパ球(L)との接触。4,000倍
大食細胞も鍼治療によって活発化して貪食能が増加し、異物を多量に貪食して肥大する。
大食細胞と脂質貯蔵細胞とが互いに接近して接触する所見が見られた。

 
肝臓の組織所見において対照群ではグリソン鞘周辺部にリンパ球の浸潤あるいは他の間質細胞などの浸潤が認められ、肝細胞索は中等度に乱れて肝細胞の部分壊死が認められました。それに対して鍼治療群では対照群に見られる老化による組織の変化はあまり認められませんでした。また、間質への細胞浸潤は少なく、肝細胞索は比較的よく保たれていました。
 

以上の組織像所見からも推測できるように死亡率においても鍼治療群が低いことが確認されました。

鍼治療を施さなかったマウス 長期に鍼治療を施したマウス

 

    

2.臨床研究

①臨床鍼灸現場の実態
臨床鍼灸の現場において、長期に鍼灸治療を受療した患者から身体に様々な効果的変化があったことについて、種々報告を受けることがしばしばあります。
例えば東洋医学研究所ョをはじめ6治療院で、長期間鍼灸治療を受療した患者の自覚所見と、その患者に対する第3者の評価がどのような結果を示したかについて調査検討しました。
対象は、平成元年4月1日から平成3年3月31日までの2年間に健康管理または不定愁訴を有する患者で、3ヶ月以内に21回以上継続して生体制御療法としての鍼治療を受けた患者414例中5例以上同一解答のあった277例と、そのうち第3者から2例以上同一評価を受けた患者77例について調査しました。
調査をしたところ表1・2の結果が得られました。この調査結果をみると生体制御療法を長期間受療した患者がいかに生体に良い影響を与えているかがうかがい知れるのであります。

表1 長期鍼治療継続患者の自覚所見

1.健康に自身がつき身体が軽く、調子が良い 21
2.食欲が出てきた。食事がおいしくなった 1
3.やる気が出て、よく仕事ができるようになった 17
4.疲れにくくなり、寝起きが良くなった 16
5.よく眠れる。寝つきが良く、ぐっすり眠れる 15
6.目が疲れにくくなり、良く見えるようになった 12
7.肩こりが楽になった 12
8.膝の痛みが楽である 11
9.足の運びが良く、さっさと歩ける 11
10.風邪をひきにくくなり、ひいてもすぐ治る 10
11.生理が順調になった。楽に動ける 9
12.胃の具合が良くなった 8
13.気持ちが明るくなり楽しくなった 6
14.皮膚がうるおった感じがする 6
15.お通じ(下痢・便秘)が良くなった 6
16.頭痛がしなくなった 6

表2 長期治療継続患者に対する第3者の評価

1.元気になったと言われた 8
2.表情が明るく生き生きしてきたと言われた 7
3.身体や歩き方がしっかりしてきたと言われた 6
4.若返ったと言われた 5
5.顔色が良くなったと言われた 5
6.身体が細くなったと言われた 3
7.肥えてきたと言われた 3
8.顔や肌に艶が出てきたと言われた 3
9.声がしっかりしてきたと言われた 3
10.よく食べるようになったと言われた 2
11.体力がついたと言われた 2
12.動作が早くなったと言われた 2
13.最近やる気が出てきたと言われた 2
14.髪の毛の艶が良くなった。黒くなったと言われた 2