(公社)生体制御学会第263回定例講習会に参加しました
9:30~10:20 基礎生理学
「心拍変動について」
名古屋市立大学大学院医学研究科医学・医療教育学分野研究生
(公社)生体制御学会経理副部長
山田 篤 先生
今日は山田篤先生より心拍変動についてのお話しをいただきました。
「黒野保三先生は、2011年にオートノミックニューロサイエンス誌に『ダン中(CV17)への鍼刺激は心拍変動の心臓迷走神経成分を増加させるが、中庭(CV16)への刺激では増加しない』と題して、また、2012年に自律神経雑誌に『心拍変動解析による鍼刺激に対する自律神経反応の評価』と題して、鍼治療は副交感神経を調節することができるという内容の論文を投稿されました。その時に心拍変動を解析することで副交感神経の働きをみたのですが、なぜ、心拍変動で副交感神経をみることができるのでしょうか?
まず、心拍変動は心電図で計ることができます。心電図の中のR波は心臓が収縮するときの電気の流れをみることができます。走った後などは心臓の拍動が早く、R波とR波の間隔(R-R間隔)は狭くなります。この心臓の拍動の早さを調節するところが洞結節というところで、自律神経はこの洞結節に影響を与えています。自律神経は働かなくても内因性心拍数といって、心臓は拍動しますが、20歳代で110回/分と非常に早く拍動してしまいます。
心臓の拍動に影響を与えるものに呼吸と血圧があり、呼吸周期は3~4秒ごとに心拍に影響を与え、血圧変動周期は約10秒(メイヤー波)とゆっくりした間隔で心拍に影響を与えます。また、副交感神経はアセチルコリンの分泌で働く特徴があり、1秒ずつ心拍に影響を与え、交感神経はノルアドレナリンの分泌に働き、作用はゆっくりで6~7秒に1回心拍に影響を与えます。
この呼吸周期、血圧変動周期、副交感神経、交感神経が4つの心拍に影響を与える時間が非常に大切になります。これらをHz(ヘルツ)にすると、1Hzは1秒に1回なので、呼吸周期は約0.25~0.3Hz、血圧変動周期は0.1Hz、副交感神経は1Hz、交感神経は0.15Hzになります。交感神経は0.15Hzとゆっくりなため、0.15Hz以上の早い心拍の変化に影響を与えることはできません。この特徴を踏まえて、心拍変動解析をすると、0.15Hz以下はLF(Low Frequency)といい、ゆっくりとした心拍変動は交感神経も影響を与えるので、交感神経+副交感神経の指標、0.15Hz以上はHF(Hi Frequency)といい、早い心拍変動は副交感神経しか影響を与えることができないので副交感神経の指標となります。
では、HFは本当に副交感神経活動をみることができるのでしょうか?副交感神経の効果を遮断するアトロピンという薬を使った実験の報告があり、アトロピンによってHFの波形がほぼ消失したことから、HFは副交感神経を反映していることがわかっています。
このような形で、心拍変動解析を行うことで、自律神経の働きをみることができ、鍼治療は副交感神経を調節することができることを実験で証明することができるのです。」というお話しがありました。
10:30~12:00 痛みの基礎 (社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座
「難治性慢性痛と脊髄刺激療法」
名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔・危機管理医学分野講師
杉浦 健之 先生
今回は難治性慢性痛に対する脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)についてお話しをいただきました。
「SCSは主に慢性難治性慢性痛に用いる治療法の一つです。下腹部、胸に手術によって器械を埋め込んで電気を流して痛みを緩和させる治療法です。
その歴史は1960年代のゲートコントロール説に基づき、1970年代に確立されました。1980年代に入ると保険適用されるようになり、1990年代以降、器械が急速に改良されています。
臨床では、患者さんにSCSを説明した後、試してみることができます。そして、納得された患者さんに対して本植えこみの手術をします。首の痛みには第1~3頸椎、背中の痛みには第6~10胸椎を目安に、ミリ単位で患者さんに一番効果のある場所に刺激装置をつけ、腹部に電池を埋め込みます。
刺激の設定もでき、刺激幅(60~450usec)は刺激強度=電圧×幅、幅が広いほど広範囲を刺激できます。刺激電圧(0~10mv)は強い刺激ほど広範囲にわたって刺激できますし、神経に近いほど低刺激で十分の刺激が与えられます。刺激頻度(2~130Hz)は患者の心地よい頻度で刺激します。
この脊髄刺激療法は何故効くのかは、はっきりとわかっていません。挙げられている理由としてはゲートコントロール説、痛覚伝導路の伝達障害、下行性抑制系の関与、視床などの上位中枢への影響があります。
SCSの適応疾患として、FBSS(Failed Back Surgery Syndrome:腰椎の手術を受けたにもかかわらず,腰痛や下肢痛などの症状が持続する患者)、CRPS(Complex regional pain syndrome: 複合性局所疼痛症候群)、帯状疱疹関連痛、求心路遮断性痛、脊柱管狭窄症、多発性硬化症の痛み、パーキンソン病の痛み、末梢血流障害、狭心症などに用います。また、鎮痛薬では第1選択薬にリリカや三環系抗うつ薬、第2選択薬にノイロトロピンなど、第3選択薬にモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬を用いますが、これらが効かない場合にSCSを考えます。
約40年前から現在まで世界で40万件以上、日本で4千例以上の症例が蓄積されている治療法であり、薬物療法に抵抗のある方、薬を減らしたいという方、痛みが強すぎて生活に支障がある方といった方々の治療の選択肢の一つとして考えていただければと思います」というお話しをいただきました。
13:00~13:50 疼痛疾患の基礎・臨床、診断と治療
「腰痛に対する徒手検査の実技」
(公社)生体制御学会研究部疼痛疾患班班長
河瀬 美之 先生
今回は、腰痛に対する徒手検査の実技として「腰痛に対する徒手検査記録表」に沿って、疼痛疾患班班員の指導のもと、班に分かれて徒手検査の際の手順や注意点などについて実地での説明がありました。
14:00~14:50
疼痛疾患に対する症例報告
「難経五十六難における肺積、肝積を考えた上肢痛の症例」
愛知漢方鍼医会代表
高橋 清吾 先生
今回、高橋清吾先生には池田政一先生の「難経真義」を基に、難経五十六難についての解説と、上肢痛を訴えた症例について詳細な説明がありました。