上半身肥満(内臓肥満)が引き起こす心疾患とその予防 東洋医学研究所®グループ 伸誠鍼灸院 院長 加納 俊弘 平成30年8月1日号
動脈硬化のリスク因子(死の四重奏)は、1.上半身肥満(内臓肥満)、2.耐糖能異常(糖尿病)、3.高中性脂肪血症、4.高血圧となっています。
以前は1.高血圧、2.糖尿病、3.高脂血漿、4.喫煙でしたが、現在では日本人にとって上半身肥満(内臓肥満)が一番のリスク因子といわれています。
上半身肥満(内臓肥満)は腹腔内の腸間膜などに脂肪が過剰に蓄積しているタイプの肥満で、下半身よりもウェストまわりが大きくなるその体型から「リンゴ型肥満」とも呼ばれます。男性に多く見られるのも特徴です。またBMIが25未満で、肥満ではないものの内臓脂肪が蓄積している場合もあり、俗に「隠れ肥満症」と呼ばれることがあります。
内臓脂肪蓄積とは、CTスキャンで臍の位置で体を輪切りにしたときの内臓脂肪面積が100cm2を超えているものを指し、これに相当する目安としてウェスト周囲径が男性85cm以上、女性90cm以上を上半身肥満(内臓肥満)とされます。
上半身肥満は個体差はあるものの致死的な血管リスクが短期に進行する恐れがあることが臨床研究によって明らかになってきました。
脂肪細胞の数は生まれたときにほぼ決まっています。内臓脂肪が溜まって許容を超えると余った脂肪は肝臓や心臓といった他の臓器に蓄積します。特に心臓へ蓄積した脂肪は幼弱な血管を心臓の冠状動脈(以下冠動脈)に接続し自らを養おうとします、その時に炎症性サイトカイン(TNFα等)を冠動脈に注入し冠動脈痙攣を引き起こします。これを冠攣縮性狭心症といい、時に冠攣縮が強く、心筋梗塞のように虚血状態になると死に至ります。こうした心臓発作を急性冠症候群と言います。
心筋梗塞を起こした人の中で冠動脈病変があった人は50%であり、50%は病変が見つかっていませんでした。(厳密には冠動脈の内皮細胞の障害やポジティブリモデリング※1が起こっている場合が多い。)
心臓発作の症状を発症した患者さんが救急外来を受診し、医師の診察を受ける頃には症状が寛解しており、後に再発作を起こした症例ではこの病変が見つからなかった急性冠症候群であることが推測されます。
日本人は欧米人に比べ冠攣縮が多いこと、また冠攣縮が起こることによって冠動脈にプラークなどの病変があると心筋梗塞のトリガーとなること、また心筋梗塞の発作によっても強い冠攣縮が起こることが多く致命的ダメージにつながるという報告があります。
全ての急性冠症候群が上半身肥満ではありませんが、このようなリスクのある上半身肥満を予防、また治療するにはやはり運動と食事を中心とした生活習慣の改善が必要不可欠であることは言うまでもありません。
運動は年齢や基礎疾患によりその量や強度を個人に合わせる必要がありますが、有酸素運動を中心として行うことにより基礎代謝を上げると共に大動脈などの血管の弾力性を維持回復することによって、末梢血管に対する血流負荷が改善し、末梢血管障害や臓器障害を予防することができます。
食事療法においては色々な情報が日々紹介されていますが、ここでは数年前にテレビ等でも話題になったアディポネクチンを増やす食材についてお伝えいたします。
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで「やせホルモン」とも呼ばれています。「やせホルモン」の名の由来は運動をすればもちろん、しなくても糖や脂肪を燃焼させる働きがあるからです。
アディポネクチンは脂肪燃焼の働きだけではなく最も注目されている点は、動脈硬化を予防し、改善する働きです。アディポネクチンには血管内の傷を修復するだけでなく、血管を拡張する働きがあり、アディポネクチンが正常に分泌されていれば動脈硬化を予防することが可能となり、生活習慣病を防いでくれる可能性があります。そのためアディポネクチンは別名「長寿ホルモン」とも呼ばれています。
しかしながら内臓脂肪が多くなればなるほど、アディポネクチンの分泌量が減ってしまい、その機能も低下していることがわかってきました。
アディポネクチンの分泌を高めるための食品は大豆食品です。
大豆の主要タンパク質である「βコングリシニン」は、アディポネクチンを増やすといわれています。木綿豆腐には6.6g、絹ごし豆腐には4.9gのたんぱく質が含まれています。納豆や豆味噌、湯葉など、ほかの大豆製品も積極的に取り入れることが良いでしょう。
青魚に含まれるEPAもアディポネクチンを増やすといわれています。他の魚介類では、鮭や海老、蟹などに含まれている赤い色素成分「アスタキサンチン」もアディポネクチンの働きを助けるといわれています。
しかし、残念なことに日本人には遺伝的にアディポネクチンの分泌が少ない人が存在していることも報告されています。肥満でないにもかかわらずアディポネクチンの少ない人が、30~40%程度いるといわれています。
そこで注目されているのが「オスモチン」という物質です。オスモチンは植物に含まれているたんぱく質で、フィトケミカル※2の一種です。
研究段階ではありますが、オスモチンはアディポネクチンと構造が非常に似ており、その作用も糖や脂肪の代謝を上げることが確認されています。オスモチンはブドウ・リンゴ・キウイフルーツ・サクランボなどの果実やピーマン、唐辛子などに含まれています
これらの食品をバランスよくとって上半身肥満(内臓肥満)の予防・治療に生かすことが大切だと思います。
また当Web siteの東洋医学研究所®所長の黒野保三先生は糖尿病患者さんに対する鍼治療において有効な実績を上げられており、このことは上半身肥満(内臓肥満)などの脂質代謝に対しても有効であることが示唆されます。
食事と運動などの生活習慣の改善と共にぜひ鍼治療を取り入れていただきたいと思います。
参考資料
1. delines for Diagnosis and Treatment of Patients with Vasospastic Angina(CoronarySpastic Angina)(JCS2013)
2. 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-051.html
※1ポジティブリモデリングとは、血管内にプラークなどが形成され血管内腔が狭くなると血管が内腔を拡げる現象。冠状動脈・頸動脈に見られることが多い。
※2ファイトケミカルとは、野菜、果物、豆類、芋類、海藻、お茶やハーブなど、植物性食品の色素や香り、灰汁などの成分から発見された化学物質で、抗酸化力、免疫力のアップなど、健康維持改善に役立つのではないかと期待され、研究されている。