新型コロナウイルスについて 東洋医学研究所® 副所長 石神 龍代 令和3年1月1日号
はじめに
2020年元旦、国民が期待に胸膨らませ待ちに待ったスポーツの祭典『東京オリンピック』開催の輝かしき年が明けました。
ところが1月6日、厚生労働省は「中国内陸部の湖北省武漢市で前年12月より原因となる病原菌が特定されていない肺炎の発生が複数報告されている。」という内容のプレスリリースを発表し、14日には世界保健機関(WHO)は中国当局からの情報提供を受け、『新型コロナウイルス』確認を発表し、15日には初めて日本人の感染例が確認されました。
そして、2月3日に横浜港に帰港した大型クルーズ船の「ダイヤモンド・プリンセス」集団感染、13日には国内初の死者が報じられ、16日には「新型コロナウイルス感染症専門家会議」が発足し、3月11日、WHOのテドロス事務局長が「新型コロナウイルスはパンデミック(世界的な大流行)と言える」と表明し、ついに日本政府は4月7日に「緊急事態宣言」を発令しました。
昨年より世界中が新型コロナウイルス感染の拡大による未曾有のコロナ禍に見舞われており、今なお収束の目途がたっていない状況です。
この難局を健康で心穏やかに乗りきっていきたいものです。
新型コロナウイルス感染との闘いの鍵 『免疫』
世界を脅かす未知なる強敵新型コロナウイルスは、現在、世界中で9700万人以上が感染し、170万人以上が命を落としています。
私たちの体の中に侵入した新型コロナウイルスと果敢に戦うミクロの戦士が免疫細胞であり、その数2兆といわれます。その免疫力を司る神秘のメカニズムが最近の科学の力で次々に解明され始めています。
「NHKスペシャル『人体 VS ウイルス』 ~驚異の免疫ネットワーク~」で紹介された、誰も見たこともないミクロの攻防を、貴重な最新顕微鏡映像と精緻なコンピューターグラフィックスで完全映像化した、私たちの体の中に広がる知られざる世界を覗いてみましょう。
☆新型コロナウイルス 体内ミクロの攻防 『自然免疫』
新型コロナウイルス(以下ウイルス)は感染した口から飛び散るごく小さな飛沫などに潜んでやってきます。直径1㎜程度の飛沫の中に700万個のウイルスが含まれていることもあります。ウイルスが鼻や口に飛び込んでいきます。最初の関門は空気を肺に吸い込む気道。その表面を電子顕微鏡で1万倍以上に拡大すると毛のような線毛がたくさん生えているのが見えてきました。ウイルスはこの線毛を巧みに通り抜けて、遂に肺の奥深くまで到達し、いよいよ感染が始まります。ウイルスが肺の細胞に近づき、その表面にある不思議な形の突起に自分の周りのトゲをピッタリ合わせると細胞の中に潜り込んでいく。これが感染です。細胞の表面にあった突起は、本来細胞がコレステロールなど必要な物質を取り込む際、扉を開ける鍵穴のような働きをしています。細胞の中に入れるのは鍵穴に合う鍵を持っているものだけ。ところがウイルスは細胞の鍵穴に合う『偽の鍵』を持っていて、まんまと細胞を騙すことに成功し、侵入を果たします。細胞に侵入したウイルスは1000倍にも増殖し、再び外に飛び出して新たに感染する細胞を求めて散らばっていきます。このままだと肺の細胞が次々とウイルスにやられて肺炎が進行し、症状がどんどん悪化してしまいます。この危機的な状況を防ぐために立ち上がるのが、私たちの体を守る防衛隊、免疫細胞です。
ウイルスに感染した細胞が免疫細胞に危険を知らせる警報物質(インターフェロン)、いわば「敵が来たぞ」というメッセージは血流に乗って全身に広がっていきます。そして血管の中を転がっている丸い食細胞(好中球といわれる免疫細胞)は、そのメッセージを受け取ると、血管の外に出て感染が起きている現場へ急行し、異物を見つけると近づいて食らいついて丸飲みします。いち早く感染を察知し、丸飲み攻撃をしかけるこの防衛隊は『自然免疫』と呼ばれ、生まれつき私たちが誰でも持っている免疫システムです。
ウイルスに感染して無症状で済む人は、体の中で食細胞が大活躍していると考えられるのです。
ところが体調は思わしくなく症状がだんだん悪化していくことがあります。実はウイルスが『自然免疫』の攻撃をすり抜ける驚きの能力を持っていることが最新の研究で明らかになってきました。ウイルスが細胞に侵入すると、感染した細胞は「敵が来たぞ」という警報物質を大量に放出していましたが、ウイルスが持つ特別な遺伝子が働くと、作られる警報物質の量が10分の1まで抑え込まれてしまい、敵が侵入したという情報が伝わらないため、野放しとなったウイルスは大増殖してしまいます。
☆症状悪化の危機!命を守る 第2の防衛隊 『獲得免疫』
もはや『自然免疫』では抑えきれない程に大増殖したウイルス。その時体の中では第2の防衛隊が立ち上がります。先程までウイルスと戦っていた食細胞の仲間の伝令役の食細胞(樹状細胞)が走り始め、免疫細胞にたどりつき、戦いの時に飲み込んだウイルスの断片を手の様なものに乗せて差し出しています。免疫細胞がそれを敵の情報として受け取ると、翼の様なものが生えて出撃準備完了。ウイルスだけを狙い撃ちするキラーT細胞の登場です。キラーT細胞はウイルスに感染した細胞を巧みに見つけ出し、へばりつき、事前に学んだ情報とこの断片を照らし合わせ、一致すれば攻撃を開始します。実際にキラーT細胞の攻撃の様子を捉えた最新の顕微鏡映像では、キラーT細胞はターゲットの細胞にとりつくと、毒物質を注入し、感染した細胞ごとウイルスを消し去るのです。
しかし、ウイルスはこのキラーT細胞の攻撃をも退ける特殊能力を持っている可能性も見えてきました。狙うのは、感染した細胞がウイルスの断片を突き出す手が表面に出る前に分解してしまうのです。そうなるとキラーT細胞が、ウイルスが潜む感染した細胞を見つけることができないままウイルスがどんどん増殖してしまいます。そこで、さらなる免疫の部隊が導入されます。B細胞です。B細胞はウイルスの断片に触れて敵情報を入手。そして作り出すのが『抗体』といわれる物質です。顕微鏡で拡大するとYの字の様な形をしています。どんな攻撃をするかというと、B細胞が放出した抗体がウイルスに近づき、ウイルスが細胞に侵入するために使う『偽の鍵』に付着します。こうなるとウイルスは感染も増殖もできなくなり、行き場を失ったウイルスに食細胞が近づき、次々と食らいつきます。ここまでくればもう安心。私たちの体は徐々に回復していきます。
実はT細胞やB細胞は私たちの体の中でウイルスの記憶を保ったまま待機し続け、もし再びウイルスが体に侵入してきても、すぐに戦闘態勢がとれるように準備しているのです。敵の情報を学んで集中攻撃を仕掛け、撃退した後も体を守り続ける専門部隊、これが『獲得免疫』と呼ばれる第2の防衛システムなのです。
私たちの体(人体)の免疫細胞は40種類以上あって、それぞれが違う役割を担う『免疫ネットワーク』でウイルスと対峙しています。
新型コロナウイルスには免疫の力を利用して対応できるのではないかと世界中の研究者が治療薬(ワクチン、抗体)の開発に努力しています。
新型コロナウイルス感染予防策
私たちが日常生活でできる予防策として、先ずは「感染しない」、「人にうつさない」ことを第一に考え、「新型コロナウイルス感染症専門家会議」の発表した「新しい生活様式」を着実に実行していくことが大切です。
新型コロナウイルスの感染経路は、主に飛沫感染と接触感染が考えられています。まず、飛沫感染の予防策として「密閉」「密集」「密接」、いわゆる「3密」の回避です。
「密閉」を避けるためには、空気の流れができるよう2方向の窓を全開することです。換気は1時間に2回、数分間程度が目安です。
「密集」は人の密集する場所を指し、大勢が集まるイベント会場などでは、お互いの距離を2メートル程度(最低でも1メートル)空けること「ソーシャルディスタンス(社会的距離などの意味)」が求められます。
「密接」は近距離で会話や発声をすることであり、会議などで対面での会話が避けられない場合は、十分な距離を保ち、互いの飛沫が飛ばないようマスクを着用しましょう。国からマスク着用が推奨される動きは、1918年(100年前)、世界中で大流行した「スペイン風邪」の時の対策でした。
スーパーコンピュータ―「富岳」を使った計算では、マスクによって飛沫の拡散を約8割防ぐことができるという結果が出ました(理化学研究所2020年8月24日公表)。
※ 新型コロナウイルスの特徴のひとつに『見せかけの無症状』といわれるものがあり、体の中でウイルスがどんどん増えていき、最初は無症状ですが、感染から5日経つとウイルスが一定の量を超えるので、咳や倦怠感、発熱といった風邪の様な症状が現れ、肺炎が進行します。
日本の最新報告によると、感染を広げた人の多くが無症状でありました。無症状だからといって感染していないわけではないので、他の人の命を守るためにマスクが大事な働きをすることを示しています。
次に接触感染の経路として、一番気をつけたいのは「手」です。ウイルスの体内への侵入経路は、鼻や口、目などの粘膜からです。ウイルスの付着した手で粘膜に触れると、そこから感染してしまう恐れがあります。そのため、手についたウイルスをきれいに洗い流すことが感染予防の基本となります。手の洗浄は、石けん液と流水で汚れや日常生活で皮膚の表面や爪に付着した菌の一部を除去します。手全体や手のしわ、指の間などもしっかりと石けん液を泡立てて行き渡らせるのがポイントです。短い時間では落としきれないので、30秒を目安に心がけましょう。それでも除去できなかったウイルスを消毒するのがアルコール消毒液(濃度が約70%以上のエタノール)です。
おわりに
新型コロナウイルス感染に打ち勝つためには、十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動(ラジオ体操や自分にあった速度と時間の散歩など)による基本的な心身の健康作りによって免疫力をさげないことが大切です。
また、東洋医学研究所®黒野保三所長の長年の研究によって裏付けられている生体の統合的制御機構の活性化を目的とした生体制御療法の鍼治療(鍼と超音波の併用治療)を受療されることをお勧めいたします。
引用・参考文献
・いのちもお金も大事! 新型コロナウイルスから身を守る・家計を守る・くらしを守る:彩流社編集部、2020年10月12日発刊、彩流社
・https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/view/detail/detail08.html
・NHKスペシャル タモリ×山中伸弥 人体VSウイルス 驚異の免疫ネットワーク 11月9日放送
・黒野保三.長生き健康「鍼」.現代書林.2008:94-6
・NHKスペシャル「謎の感染拡大~新型ウイルスの起源を追う~」12月27日放送