鍼治療はいつしたらいいでしょうか? -食べることから考えてみましょう- 平成26年8月1日号 東洋医学研究所®グループ 福田鍼灸院 院長 福田 裕康

「鍼治療はいつしたらいいのでしょうか?」と問われたら「今でしょう」とどこかで聞いたフレーズを答えるでしょう。別に今調子悪くないのに治療した方がいいのでしょうか?そんな疑問に答えるのに、人が物をたべるという観点から考えることにしてみました。

人はなぜ食べ続けるのでしょうか?
今、鍼治療をした方がいいというなら体の中では日々や時間によって、変化が起きているはずです。その答えの大きなヒントになるのが食事だと考えています。なぜ人は食べ続けているのでしょうか?
あたりまえの話ですが、人は一日に三食食べます。そして、食事をするためには、食料を確保しなければなりません。食材を買いにいったり、時には採りいったりして大変な苦労なはずです。それでも食べ続けなければなりません。
なぜ食べるのでしょう?「お腹が空くから、食べます。」ほとんどは、その通りだと思いますが、何か心配事があった時、考え事があった時に、お腹が空いているのに食べたくない時もあります。お腹が空っぽになったら必ずしも食べ物が必要ということもありません。少し余談になりますが、風邪をひいたときには食欲をおさえて、お腹が空いた状態のほうが風邪と戦う力が強くなることも知られています。
では、「食べ続けないとエネルギーがなくなるから」はどうでしょうか?すごくお腹が空いているときに、どんぶりに盛ったご飯をかけこみ、お腹が満たされると満足感とともに、だんだんと力がついてきた気になります。なぜ食べ続けるのかの一つの答えはこのエネルギーだといえると思います。人間の体はエネルギーをずっと蓄えておくことはできません。常に補給し続けなければなりません。これで、人はなぜ食べ続けるのかという疑問に答えているということでいいでしょうか。
もう少し考えてみましょう。では、エネルギーをとる、言い換えればカロリーをとるだけでいいのでしょうか?たしかにカロリーのあるものを食べれば、満腹感も得られ一見問題がないようにみえます。でも、カロリーをたくさんとる食事は肥満を起こしやすくするだけではなく、直接、糖尿病や高血圧といった生活習慣病といわれる病気に直結することは皆さんも知るところとなりました。一つの種類の食べ物をとるのではなく、いろいろな種類の食物をとらないといけないことも周知の事実です。
また、ダイエットの是非はともかくとしてダイエットをおこなうときも、単純に食べるものを減らすのではなく、いろいろな種類の食物を食べて全体的に減らしていかないと、ダイエットどころか病気をつくることもわかるでしょう。
このように考えると、食べ続ける理由には、エネルギーを作るということはもちろん、それぞれの栄養素が必要なのは体をつくることに使われているからであるということがいえます。そして、体をつくっているものは細胞であり、これは非常に壊れやすいもので、いつもどこかで壊れているといってもいいくらいです。そして、その修復を常日頃から行うために、その材料となる食事を取らなければいけないということになります。食べ続けなければいけない理由はここにありました。
実際に人の体の中では、一日に1兆個の古い細胞が死に、同じ数の新しい細胞が生まれているわけです。新しい細胞ができるときには遺伝子をコピーして大量の細胞ができますが、そのなかでどうしてもコピーミスがあることは、さけられないと言われています。
このコピーミスを引き起こす原因は、喫煙、飲酒、ストレスなどたくさんありますが、通常コピーミスで生まれた細胞の大半は死ぬはずです。死なずに残った細胞もさらに体の中にある免疫というシステムを使って追っかけていくのですが、まれにこの免疫の監視の目をくぐりぬける細胞があるのです。これが、後になって悪いことをするわけです。そして、これは年齢とともに起こりやすくなるとも言われています。
ヒトの細胞は壊れやすく毎日壊れており、また新しくなる時にもいろいろなリスクがあることがわかりました。

鍼治療はいつするの?
そこで、もう一度最初の疑問へ。鍼治療はいつ行えばいいでしょう?健康で快適な身体で、老化によるリスクを減らすことができれば、どんな病気になるリスクも減らすことができるはずです。理想はそうでも、実際に鍼治療でこんなことが出来るのでしょうか。答えは出来ているはずです。しかし、完全な証拠を提出できるために努力中ですというところです。
東洋医学研究所®黒野保三所長が行ってきた研究の中に、ネズミの老化を細胞レベルでとらえ、老化するとでてくる細胞の特徴を鍼治療で抑えることができました。また、長期に鍼治療をしたラットでは、胃や腸の動きを調節する神経細胞の働きをよくし、神経細胞を新しく作ったであろうと思われる結果も得ています。また、臨床の現場の研究では、定期的に鍼治療を行っている人は、免疫細胞の活性化があり、明らかに風邪をひきにくくなっていました。このように、細胞レベルでの変化が認められているのです。
東洋医学では昔から、「未病治」という言葉があるように、病気になる前が大事であると捉えてます。人の体はずっと同じではなく、食べることから考えたように、常に成長し、壊れ、また生まれるを繰り返していますが、その時の体に最適な環境作りのお手伝いは、鍼治療が他の医療から一歩抜け出しています。

ぜひ、これを体を見直すきっかけにしていただけることを願っています。

参考文献
(1)黒野保三.生体の防御機構と鍼灸医学.全日本鍼灸学会雑誌41(1):1991;234-244.
(2)角村幸治.黒野保三 他 かぜ症候群の予防に対する鍼治療の有効性 .
全日本鍼灸学会雑誌59(4):2009;416-420.