四時と生物暦-食物(五穀)について- 平成29年5月1日号 東洋医学研究所®グループ 岡田鍼灸院 院長 岡田 静治郎

はじめに
四時の意味を調べると春夏秋冬の四季や一日のうちの朝昼夕夜の時を表すとされ、太陽や月の周期的な運動を基にした物理的な時が流れています。しかし、5月は二十四節気の一つである立夏が訪れます。二十四節気には3月の啓蟄、4月の穀雨、6月の芒種など生物や植物の活動を参考にした生物歴が含まれ、物理的な時間だけではみえない農作業の時期を教えてくれる生物歴は古くから活用されています。
今回は、花の開花から教えられる農作業との関わりをみながら、出来上がった穀物の特性と私たちに与える影響についてみていきます。

梅、桜、フジの開花が教えてくれるもの
我々は地上に生きているが、地表や地下に生きている動植物の多くは、こうした時期の変化にとても敏感である。春、梅の花の開花(平均気温6~7度)の時期は、多くの動植物はそっちのけで寝ている。この時期に堆肥などの有機物を土にすき込んでも、これを分解する生き物はまだ十分に働いてくれない。桜(ソメイヨシノ)の花が咲くと、ようやく、平均気温が8度から10度になる。それでも、まだ気温は安定しておらず桜の満開(平均気温10~12度)を待って、春の大根の種を撒く。種は吸水して発芽を始めた時点で低温感受性を備える。春先の種まきは特にタイミングが難しいのである。藤(ノダフジ)の花が満開になると(平均気温16度)、もう晩霜が降りないことを教えてくれる。夏野菜の苗は霜に弱いからである。気温が高くなって植えた方が活着(根づいて生長しはじめること)しやすいので、遅植えする。夏まき秋野菜で、始めるタイミングが難しいのは白菜である。早くまき過ぎると虫にやられやすいので、極力遅蒔きにしたいのであるが、遅すぎると結球しない。したがって、サルスベリの開花(平均気温25度)を目安に、結球までに時間のかかる晩生品種から種まきをしていく。畑の近くの木を1本決めて、毎年それらの開墾をしようとしながら作業をしていくと、だんだんと自分なりの生物暦ができていく。天候が不順な時は特に生物暦が重宝する。
藤の花は桜の花よりも信頼できる。桜の開花が例年よりも異常に早い年は、寒のもどりがあるのではないかと考え、逆にじゃがいもの作付を遅らせたり、土寄せの回数を多くする。桜は多少暖かい日が続くと開花してしまうので、その後、雪や強い霜が降りることがあるからである。それに対して、藤の花はある程度暖かくなってから咲くためか、開花後に霜が降る事はまずない。そのため、桜の開花時期よりも信頼しており、気温が十分に温まった段階には、野菜の定植を行っていく。また畑に生える草で、その年の気象予報がある程度できる。ネギなどを育てていると根本にスベリヒユが生えてくる。これが地を覆うくらい元気な生育年は、暑くて乾燥した夏になりやすく、茎が立ち気味で生育している年は雨が多い傾向がある。干ばつからネギを守り、赤さび病の発生も防いでくれるもので重宝する。

生物暦
梅の開花、ウグイスの初鳴き:(6~7度)春作の準備。
油科開花、桜の開花(8~10度):春野菜の種まき、ジャガイモの植え付け。
桜の満開(10~12度):大根の種まき。
ノダフジの開花、大麦の出穂(15度):遅霜なし、夏野菜の直播き。
ノダフジの満開、小麦の出穂(16度):夏野菜の定植。
紫陽花の開花(21度):夏野菜の収穫始め。
ヒグラシ、アブラゼミの初鳴き(26度):夏にんじんの種播き。
サルスベリの開花、山萩の開花(25度):白菜の種まき。
すすきの開花(24度):秋冬野菜の種まき。
ヨメナの開花(18~20度):ほうれん草遅蒔きの限界。
銀杏の紅葉、楓の紅葉(11度):秋冬野菜の収穫時期。
いちょう楓の落葉(9度):ほうれん草糖度が増す。

五穀について
天地が人間の生命を育てるのは、ただ穀食だけである。地の徳で、気の中和を得るがために、その味は淡く甘い、そしてその性は柔らかく補いにじみ、常食としても飽きない。これが人間にとって大きな功徳となっている。
麦(むぎ)=木の性質。小麦の皮は冷たく実は厚い。これを合わせて煮て食べるとよく、皮が壊れるのは控え、割ると温になるが、これは麺が熱を消し煩わしさを止められないのを証明する。長期に食すると健康になる。
黍(きび)=火の性質。性は微寒で甘く無力である。大腸を利しおできを治す。おできの毒を消し、五臓の気を防ぎ風を動かすので、常食はできない。酒や餅を作ると良い。少し毒があるので長い間食べていると五臓が弱くなる。
稗(ひえ)=土の性質。粟と並んで日本に最も古い穀物で名前は「冷え」に耐えることに由来しているとも言われている。寒さに強い救荒食(飢饉や災害、戦争に備えて備蓄、利用される代用食物)として利用されてきた。血中の善玉コレステロールを高め、ビタミンB 6、ナイアシン、パントテン酸、リン酸、亜鉛などを含む。
稲(いね)=金の性質。性は平で味は甘く無害である。胃気和らぎ筋肉を養い、益気に良い。ご飯やお粥を作って食べるのが良い。霜が降りて刈った稲が最も良い。
豆(まめ)=水の性質。性は寒、味は甘く無害である。一切の丹毒と、風疹の発動を治す。熱を抑えて腫を消し、肌を下して正月を止める。五情を和らげ精神を安定にし十二経脈を順行させるのに最も良い。
 
食生活の中で穀物が主たる生命の泉であります。人間の一生食べる量も決まっている。腹八分医者いらず。四季の食物を食することによって、健康で命のある限り自然界の人間として生きさせていただきましょう。

おわりに
東洋医学の古典文献の一つである黄帝内経に「年数を重ねていくことと、気の盛衰と虚実が起こることを知らねば、医者にはなれない」という記載があります。年を重ねることによる身体の変化と自然界から受ける身体の変化が的確に診えるようにならなければいい医者にはなれないことを説いています。 
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