子供の「疲労」を解決しよう 東洋医学研究所®グループ にしだ鍼灸院 院長 西田 修 令和2年12月1日号
子供たちは疲れています
子供の疲労には、様々な原因がありますが、その中でも「生活時間帯のずれ」が深刻な状況にあると考えられます。学校が終わった後も、習い事やクラブ活動に参加する子供が非常に多く、中学生になるとそれは一段と際立ってきます。それによって、就寝時刻がどんどん遅くなり、結果として睡眠不足の状態が続き、とれない疲労が蓄積してしまいます。3ヶ月以上続く疲労を慢性疲労といいます。このような背景から、疲れている子供が増えているといえます。
睡眠時間を確保しましょう
理想の睡眠時間は国際的にも議論がなされており、小学生は9時間以上、中学生は8時間以上といわれています。
1日は24時間ですが、そこから理想の睡眠時間である9時間を引いた15時間が生活時間となります。大切なのは、1日24時間の中で何をするのかを決めて、残った時間を睡眠に充てるのではなく、生活時間の中で何をするのか考えることです。
これを1日単位ではなく1週間単位で考える方が理想的です。子供達の習い事やクラブ活動は、実に多様ですから、日々どのようにしてコンディションを整えていくか、負荷の大きな日があるならば、翌日はそれを緩和させるような時間管理も必要です。毎日8~9時間の睡眠を確保することが理想ではありますが、子供たちの現状を踏まえると、現実的ではありません。だからこそ、1週間というスケールで物事を考えた方が良いと考えます。
子供と大人の疲労は、よく似ています。大人の場合は「ノー残業デー」が設けられて、水曜日に設定されるケースが多いと思います。それは、週の真ん中で労働時間をコントロールすることにより、週の後半を頑張ることが出来るためです。
これは、大人と同じような時間の使い方をしている子供にも、置き換えることが出来ます。子供たちは夜の21時~22時頃まで習い事やクラブ活動をしていると考えれば、大人の残業と変わりません。例えば水曜日の放課後には習い事やクラブ活動を入れないとか、水曜日の部活動は終了時間を早くするといったことを考えるとよいと思います。
また、テレビの視聴時間やSNSの利用時間が長いほど、スマートフォンの利用時間、さらには夜のコンビニエンスストア利用頻度が高いほど、睡眠時間が短いというデータもあります。
睡眠の質を高めましょう
睡眠を高める手段としては、まずは「道具=寝具」の改善が考えられます。枕の高さを変える、体圧分散機能が付いたマットレスを使う等が挙げられます。次に「睡眠環境」を整えることです。暑すぎたり寒すぎたりすると、体温調節にエネルギーを使ってしまうだけでなく、交感神経を優位にしてしまう恐れがあるためです。そして、テレビの視聴やスマートフォンの利用は控えましょう。
一方、起床時については、目覚まし時計のアラームで目覚めるよりも、自然光を少しずつ浴びながら目覚めるのが理想とされています。
そして、子供の疲労を解決するもう一つの糸口が「家族」です。家族とコミュニケーションをよくとっているかどうかが、寝る前の情動の安定に関係します。学校であった出来事や、習い事やクラブ活動で取り組んだことを家族に話し、それに対して褒められたり、受容されたりするような心地よい時間があると寝る前の心の落ち着きが生まれると考察できます。
不安な状態では、寝ようと思って布団に入っても、ネガティブなことを考えてしまうものです。そうすると、睡眠は本来ならば脳の温度を1~2度下げる作用があるにもかかわらず、脳が活動してしまうことで温度が下がらず、なかなか寝付けません。
東洋医学研究所®及び東洋医学研究所®グループでは睡眠に対する鍼治療の臨床研究を行っています。
第27回生体制御学会学術集会シンポジウム「医療の水際での鍼灸診療」において、「鍼灸院における睡眠に対する鍼治療の実態調査」と題して、初回鍼治療日に主訴の内容に関わらず1回の鍼治療で63%の人が「いつもよりよく眠れた」と回答していると報告しました。
また、鍼治療を行った日と、行わなかった日の2日間の睡眠の評価についてOSA睡眠調査票MA版を使用して検討した結果、入眠と睡眠維持、夢み、疲労回復において点数の増加が認められ、鍼治療により自覚的な睡眠の質が改善したことが客観的に評価されました。
また「睡眠障害に伴う不定愁訴に対する鍼治療の検討」と題した報告では、6症例の不定愁訴指数の推移は有意に減少し、不定愁訴カルテによる効果は、著効1例、有効5例でありました。また、睡眠障害も全症例において改善され、睡眠障害および睡眠障害に伴う不定愁訴に対する鍼治療の有効性が示されました。
鍼治療が睡眠の質を高めていることは、鍼刺激が自律神経の副交感神経機能を亢進しているということが基礎研究から明らかであります。
おわりに
今回、子供の「疲労」の大きな原因である「睡眠不足」についてお話しさせていただきました。大人も子供も多忙を極める昨今「睡眠」がとれない「疲労」がとれないと感じる方は生活習慣の改善とともに心身の健全を保つために鍼治療を定期的に受療されることをお勧めいたします。
引用・参考文献
・特集 上手な「疲労」との付き合い方:コーチング・クリニック. 2020. 5
・皆川宗徳,黒野保三:鍼灸院における睡眠に対する鍼治療の実態調査 第27回生体制御学会学術集会抄録集 11.2009
・石神龍代,皆川宗徳,福田裕康,井島晴彦,近藤利夫,黒野保三. 睡眠障害に伴う不定愁訴に対する鍼治療の検討. 全日本鍼灸会誌. 2006: 56(5); 793-801.
・石神龍代,黒野保三,皆川宗徳,山田 篤,各務壽紀,早野順一郎:黒野式全身調整基本穴への鍼治療(筋膜上圧刺激)による睡眠の質の改善効果―OSA睡眠調査票MA版を用いた自覚的な睡眠の質の評価―.全日本鍼灸学会雑誌.2016;66(1):24-32.
・Kurono Y, Minagawa M, Ishigami T, Yamada A, Kakamu T, Hayano J.Acupuncture to Danzhong but not to Zhongting increases the cardiac vagal component of heart rate variability. AutonNeurosci. 2011; 161. 116-20.