コロナフレイルについて 東洋医学研究所®グループ 二葉はり治療院 院長 甲田 久士 令和3年8月1日号 

はじめに
新型コロナウイルス感染症で世の中が重い雰囲気になっています。東京大学高齢社会総合研究機構機構長・未来ビジョン研究センターの飯島勝矢教授が、1年間のデータを全国の自治体から集めて調査したところ、高齢者の自粛生活長期化による生活不活発を基盤とする、心身機能の低下、いわゆる「コロナフレイル」ともいえる状態に陥っている科学的根拠が分かってきました。具体的には最初の半年間だけでも、40%強の高齢者に外出頻度の著明な低下を認め、さらに食の乱れ、人とのつながりや地域交流の低下もみられました。全身の筋肉量減少も前後比較で確認ができ、特に体幹部の減少が著明でした。握力の低下、ふくらはぎ周囲長の減少、活舌の低下なども認められていることがわかりました。
私たちは、いつまでも生き生きと元気に暮らし、介護に頼らず健康で過ごせる期間(健康寿命)を延ばすためには、病気を防ぐだけでなく、体や頭の老化も防ぐことが大切です。
今回は、コロナ禍におけるコロナフレイルについて、お話をさせて頂きます。

フレイルとは
年をとって心身が老い衰えて、心身の活力が低下した状態を「フレイル」といいます。
「フレイル」は「虚弱」(英語でfrailty)が語源です。多くの人が「フレイル」を経て、要介護状態に陥ると考えられています。
「健康な時期」から「プレフレイル(前虚弱)」、「フレイル(虚弱)」、「要介護(身体機能障害)」と順を追って老衰していくことを防ぐためにも、早めに気づいて対処することで、「フレイル」の進行を遅らせ、回復させることが可能です。

フレイルの兆候を早期に見つけよう
身体的-「活動的じゃなくなった」サルコペニア(筋肉減弱)、骨粗鬆症など。特に加齢で筋肉が衰えるサルコペニアは、「フレイル」の最も大きな原因の一つです。
両手足の筋肉量、握力、歩行速度の3つの指標で判断します。筋肉が衰えると、転倒、骨折、認知症のリスクを高めます。
精神・心理的-「外出の機会が減った」意欲・判断力低下、うつなど。
社会的-「おいしいものが食べられなくなった」閉じこもり、孤食(一人ひとり別々に食べる)、困窮など
先に述べた兆候に対し何も対処しないと、
① 外出しなくなる→人とのかかわりが減る→認知症のリスクが高まる
② 体のバランスが悪くなる→転びやすくなる→骨折しやすくなる
③ 噛めなくなる→食欲がなくなる→栄養が不足する
するなどに繋がります。

コロナフレイルとは
新型コロナウイルスによる感染拡大に伴う外出自粛で、心身が老い衰える「フレイル」は、気づかないうちに加速しているといえます。心身の衰えは加齢変化によるものだけではありません。まず、社会とのつながりが希薄になるところから始まります。衰えをドミノ倒しと考えると理解しやすいです。
ひとつが欠けると負の連鎖により機能が低下していきます。

外出自粛による社会とのつながりがなくなる

生活範囲の狭まり、孤立・生きがい喪失

こころが沈み、うつ、認知機能の低下

会話をする機会が減り、歯の健康を失う、咀嚼・発音の衰え

食欲不振による栄養障害

身体的機能の低下、やがて死につながる

「老い」を見える化する
東京大学高齢社会総合研究機構機構長・未来ビジョン研究センターの飯島勝矢教授は、『「フレイル」をチェックすることで、いま自分は「老い」の坂道の何合目にいるか、それを見える化することができます。栄養と運動、社会参加は三位一体。歩く習慣がない人が無理やり歩くことを始めても、続かず、効果がありません。好きなことや日常生活で活動量を補うのと同時に、オンラインなどを使って家族や友人とつながることが大切です。老いを防ぐ対策は十人十色です。』と言われています。
「イレブンチェック」というフレイルの検査を紹介します。計11項目の質問に「はい」か「いいえ」で答えていきます。最終的に、「いいえ」の回答欄に5個以上のチェックがあればフレイルの可能性が高く、少ないほどリスクは低くなります(表)。

コロナフレイルにならない予防にための3つの柱
第1に栄養(バランスの良い食事)。
第2に運動(日用品などの買い物、ウォーキング:65歳以上は男性7000/歩、女性6000/歩、家庭菜園や園芸作業)。
第3に社会参加(地域での習い事やスポーツ教室に参加:密をさければよい)。
加齢とともに、体力や筋力が低下し、日常の買い物が面倒だと感じるようになります。人と接する機会が減ったり、食生活のバランスが崩れたりすることで体が衰え、判断力や認知機能といった頭の働きも低下する悪循環が起きます。
この3つの柱を心がけることによって、フレイルの進行を遅らせることが可能です。

おわりに
今回、コロナフレイルのお話をさせていただきました。老いることにより様々な現象が引き起こされます。特に現在はコロナ禍における行動自粛が加わり、生活不活発による筋肉減弱が思っている以上にかなり進行していると思います。筋肉を大きく失うということは、単に移動問題だけでなく、免疫力も大きく失ってしまいます。感染予防の励行に加え、十分な栄養摂取、三密回避を意識した上での運動や身体活動、十分な睡眠時間などで日常生活の質を落とさず、免疫力を維持する必要があります。
東洋医学研究所Ⓡ所長の黒野保三先生の生体制御療法(筋膜上圧刺激)は、マウスを用いた基礎実験で、鍼刺激が老化防止に関与していることを細胞レベルで証明され、学会発表もされています。免疫機能も鍼刺激により活性化されること、鍼刺激により自律神経の副交感神経を優位に亢進させ睡眠の質の向上などにも影響を及ぼすなどの研究報告をされています。まさに、この生体制御療法はコロナフレイルに適した治療法であると思います。
現在、鍼治療を受けている患者さんはさらなる継続治療をして頂き、また家族の方、友人の方、職場の方など、健康な方でも今後を見据えて、健康管理のための鍼治療(生体制御療法)を受けられることを、是非お勧めします。

引用文献
・介護予防:中日新聞サンデー版2021年4月11日
・コロナフレイル:中日新聞サンデー版2021年4月18日