心不全について 東洋医学研究所®グループ伸誠鍼灸院 院長 加納 俊弘 令和3年9月1日号
「心不全」と聞くと亡くなられた方の多くの死因として医師が診断する病名で突然死を思い浮かべる方も多いと思います。
心不全とは「心臓の機能低下で全身の血の巡りが悪くなる状態」。病態により「左心不全と右心不全及び両心不全」、機能により「拡張不全と収縮不全」に分けられます。
現在、がんに次いで2番目に多い死亡原因にあげられ、高齢化に伴い毎年1万人ずつ増加していることがわかり、2030年には130万人ともいわれ、心不全パンデミックが起こるのではないかともいわれています。
心不全は進行度によってAからDまでの4段階のステージに分けられます。
初期段階では、約7割の人に自覚症状がなく、その病態が進行してしまうことも多いのです。
症状が現れた時には、重篤化していることも多く、この事を注意喚起するため、日本心不全学会では無症状の心不全に「隠れ心不全」と名付け、2010年に行われた日本心不全学会の市民公開講座で発表されました。
心不全の原因
心不全を起こすのは心臓への負荷であり、その原因は「心臓そのものに原因があるもの」と「心臓以外に原因があるもの」の大きく2つに分けられます。
心臓そのものに原因のあるもの:
虚血性心疾患(狭心症や心筋症)、心臓弁膜症(心臓の弁の異常)、心筋症(心臓の筋肉の異常)、心筋炎(心臓の筋肉が炎症)、先天性心疾患(生まれつきの心臓病)不整脈。
心臓以外に原因があるもの:
肺血栓塞栓症(肺の血管が詰まる病気)、COPD(慢性閉塞性肺疾患:肺機能が低下する病気)、高血圧、糖尿病、甲状腺機能亢進症、貧血、アルコールの過飲、抗がん剤の影響、敗血症。
心不全の症状
心不全の初期症状はあまり自覚症状がはっきりと現れにくく、息切れなどの症状があっても、「年のせいだから仕方ない」「体力が落ちただけ」と見過ごしてしまいがちで放置したまま重症化してしまい、突然急性症状を発症し救急搬送される方も多くみられます。
左心不全による症状:
初期の左心不全は、肺鬱血によって、倦怠感、動作時の息切れ、動悸、などが起こりますが、安静時には無症状であることも多いです。
しかし重症化すると、安静時にも動悸や息苦しさが強くなります。また、体を横にすると心臓に戻ってくる血液量が増えることで息苦しさを強く感じ、座ると息苦しさが軽減される起座呼吸が見られることもあります。
右心不全による症状:
右心不全では、右室のポンプ機能が低下することにより、右室や右房、全身にも血流が溜まり、体静脈がうっ血します。これにより、顔や足の浮腫、体重増加、胸水などの症状が見られます。そのほか、腹部膨満感、食欲不振、悪心、嘔吐、便秘、などの症状も見られることがあります。
心拍出量低下による症状:
心拍出量低下によって起こる症状としては、疲れやすさ、脱力感、乏尿、夜間多尿、チアノーゼ、四肢冷感、記憶力や集中力の低下、睡眠障害、意識障害などが挙げられます。これらの症状の現れ方には個人差があり、自覚のない方もいらっしゃいます。
心不全は、拡張障害が起きたあと、収縮障害も併発するという経過をたどることが多いですが、最近、とくに高齢者で、収縮機能が保たれた心不全(拡張不全)が多いことがわかってきました。血液を取り込む力が衰え、静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、通常の検査では見つかりにくく、決め手となる治療法が限られるといった特徴があります。
心不全の予後
心不全という病気の特徴として、死亡率が高く、完治がとても難しいことが挙げられます。
癌全体の10年生存率は約58%であると言われていますが、心不全の場合、一番重篤であるステージDにおいては1年の死亡率が50~60%と非常に高く、ステージA~Bの比較的軽度でも5~10%が1年以内に死亡すると言われており、予後は癌と同等、あるいはそれ以上に悪いと考えることができます。
心不全末期の患者さんは大変な苦痛を伴い末期癌の患者さん同様に緩和ケアでも大変難しい対象疾患であります。
普通にできていた動作ができなくなった、浮腫、冷えるようになった、急に体重が増えた、倦怠感、動悸や息切れが増えたと感じたら、心不全を疑い循環器科を受診されることをお勧めします。
心不全の管理と予防
心不全の治療は循環器専門医による正確な診断と治療が大切なことはいうまでもなく、初期症状がない段階から、心不全の原因となり得る生活習慣病の治療及び管理、減塩、禁煙、節酒、心臓リハビリテーションも治療及び予防に重要です。
心不全の予防法として、効果があるのは運動です。
スウェーデンのウプサラ大学研究チームによると心不全の既往歴を持たない20~90代の男女約4万人を対象に、調査した結果、運動をする習慣のある人は、心不全の発症リスクが少ないことが明らかとなりました。中でも、ウォーキングなどの中強度の運動を1時間、もしくは水泳やジョギングなど強度が高めの運動を30分ほど毎日続ける人たちは特にリスクが低くなっており、通常に比べて心不全の発症が46%低下していたそうです。
また米国の心臓学会では、週3~4回、40分の運動を適度な強度で行うことを推奨しています。
今年1月心臓弁膜症の手術をされた高血圧、糖尿病を既往とする77歳の男性が手術後調子が良かったのですが、暑くなってきてから急に、めまいと倦怠感を伴い鍼治療を受けに来ましたが、やはり下肢の浮腫が目立っていました。3日間連続で鍼治療を行ったところ浮腫がとれてくるのと同時に、めまいや倦怠感も改善していきました。
心不全という病名こそついていませんが、下肢の浮腫と手術前安静時心拍数58/minが施術後85/minと上がっていたため、次回受診時に担当医師に相談するように助言いたしました。
鍼治療が心不全にどのような効果があるのかなどの明確なエビデンスは有りませんが、本Web Siteの東洋医学研究所Ⓡ黒野保三所長は日本自律神経学会雑誌の自律神経49巻4号に鍼刺激(筋膜上圧刺激)を行うことによって心臓迷走神経の亢進を証明した世界で初めての研究が原著論文として掲載されました。
生活習慣病や将来の心不全の罹患予防のためにも鍼灸治療をお勧め致します。
資料
・国立循環器病センター・循環器病情報サービス
・http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/
・日本自律神経学会
・http://www.jsnr-net.jp/