睡眠とアトピー性皮膚炎との関係 東洋医学研究所®グループ 二葉鍼灸療院 院長 角田 洋平 平成29年8月1日号
東洋医学研究所®グループ 二葉鍼灸療院 院長 角田 洋平
はじめに
アトピー性皮膚炎は『増悪と寛解を繰り返す痒みの強い湿疹を主病変とする疾患で、患者の多くはアトピーの素因を有する』と定義されています。この痒みがアトピーを特徴づける重要な症状で、重症の方では長時間続く強い痒みがつらいばかりでなく、集中力、作業効率の低下や不眠を引き起こして、生活の質を著しく低下させています。
この痒みとセットになっているのが掻破行動、つまりは掻く・掻きむしるといった行動で痒みを解消するのですが、それがまた更なる痒みへとつながり悪循環になっていきます。またこの掻く行為の背景には痒みだけでなく不安やストレスが存在する場合もあり、様々な誘因が重なって習慣化すると、掻く行為は途切れなく睡眠中にも及ぶことになります。
そこで今回は、睡眠とアトピー性皮膚炎との関係について紹介します。
アトピーの夜間の痒み
一般的に痒みは夜間増強します。その機序としては
・概日リズムにより睡眠をもたらす深部体温の低下に伴う皮膚温の上昇が、入浴・就寝の影響でさらに上昇しやすくなり、痒みが増すこと
・外部からの刺激が減ることによって、痒みの感覚がはっきりしてくること
・夜間に角層バリア機能が低下し皮膚の水分蒸散量が増加すること
などが挙げられます。夜間に増強する痒みが入眠障害や中途覚醒を起こすことは容易に想像でき、痒みが慢性的に持続するアトピーでは深刻な問題となります。
掻くことによる睡眠への影響
掻くことは皮膚の状態の悪化のみならず睡眠を障害する原因にもなります。アトピー性皮膚炎患者では、夜間寝ている時に掻いているケースも多く、起きている時よりも寝ていて無意識な分、激しく掻いて皮膚の悪化に拍車がかかってしまいます。
さらに掻破は睡眠の浅い時に多く発生し、深い睡眠になると掻破は減少していきます。睡眠中に掻いた後も痒みが解消されたからといって睡眠が深くなるわけではなく浅いままなので、またすぐ掻くという悪循環が生じてしまいます。
睡眠は本来、頭や身体を休めて回復させるための大切な時間です。しかしアトピー性皮膚炎においてはこの大切な時間も痒みに蝕まれ、本当に「体を休めるヒマがない」という状態にあります。
また、掻破は明け方よりも就寝後すぐの早期に主にみられます。この就寝してからの3時間は皮膚などの細胞の修復、タンパク質の合成にも関わる成長ホルモンの分泌が盛んになる時間帯なのですが、しっかりと深い眠りにつきたくても、アトピー患者の場合はなかなか効率的な睡眠が取れないようです。
対策
痒みによる不眠への対策の基本は、こまめなスキンケアなどの痒みの対策となります。また散歩やジョギングなどの運動を行い軽く汗を流すことも睡眠の質の改善につながります。あまり遅い時間に運動をすると交感神経が高ぶってうまく入眠できないこともありますので、日中、夕方など熱中症に気を付けて就寝の4時間程前までに行いましょう。また、この時期汗を多くかくと痒みにつながる場合もありますので、こまめにシャワーで汗を洗い流して下さい。その際、普通のシャワーですと皮膚に負担をかけて体の保湿成分を洗い流し、余計に皮膚の状態が悪化することもあるので、シャワーヘッドを水の勢いの弱いミストのものに交換してみるのもオススメです。インターネットですぐに手に入りますし、取り付け方も簡単なようです。
おわりに
アトピー性皮膚炎は、未だに原因のはっきりしない痒みを伴う苦しい病気です。そういった病気に相対するとどうして良いかわからず無力感を覚え、さらに不眠や不安でうつ状態になる方もいます。
症状にも個人差があり対応も様々である以上、日常生活の中で色々と工夫して自分に合うもの・良いものをチョイスして続けていくことも大切なことです。
東洋医学研究所®ならびに東洋医学研究所®グループの先生方は、黒野保三先生の下、治療技術だけでなく人間性の向上に日々努めています。鍼治療を受ける際、気になることがあれば相談してみて下さい。気持ちが軽くなってその日から少し枕を高くして眠ることができるかもしれません。
引用・参考文献
・江畑俊哉:アトピー性皮膚炎と睡眠.睡眠医療.10(1).2016;71-79
・三島和夫『やってはいけない眠り方』青春出版社.2017